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六度目のループ先は今までとは異なり、ヘンリー様との婚約が結ばれた時ではなく、ユーリーの家だなんて。
食堂には私一人しかいない。部屋に置いてある時計を見るに、ユーリーが街へ行ってすぐの時間くらいだろう。
ここまであからさまだと、溜息をつきたくなる。
婚約破棄される度に、今まで私を何度も何度もループさせてきた犯人はユーリーだったというわけだ。
――ユーリーに会いたい。
私は、おかしい。
あんな、得体の知れない魔術師に会いたいと、こんなにまで強く思うなんて。
ユーリーの顔が見たくてたまらないなんて。
私は一度死んで、なおさら狂ってしまったのかもしれない。
それもこれも、あの男が最期に私を抱きしめたりなんかするから。
あの男が、涙なんて見せるから。
私の脳裏には、私が死ぬ間際に見たユーリーの姿がすっかり焼き付いてしまった。
私を想って泣く、彼の姿が忘れられない。
「ユーリーの馬鹿……!」
私がユーリーを探しに行こうとを部屋を出ようとしたその時。
後ろから不意に抱きしめられた。
「誰が、馬鹿だって?」
耳元から、聞き覚えのある甘い男の声がする。
「……ユーリー……っ!?」
一体いつ現れたのだろう。
この部屋には誰もいなかったはずだ。
だが、そんなこと問うだけ無駄であろうことは分かっていた。
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