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舌先が私の唇をなぞってくる。
そのくすぐったさに思わず緩んでしまった隙に、口付けを深められた。
「……っちょ、んん……っ」
「……俺をそんなに煽っていいのかい? もう返せないよ?」
唇が離された瞬間、間近で囁かれる。ユーリーの吐息が唇にかかってぞわりとした。
なんだか甘い花のような香りがする気がして、酔ってしまったかのようにくらくらする。
「そんなの……っ」
ユーリーは私の言葉を塞ぐように、何度も繰り返し口付けてきた。
まるで私からの言葉を聞きたくないかのようだ。
彼はきっと、私が「やめて」と言ったらその通りにするのだろう。そうしてきっと、私の知らないところで私のために勝手に何かして、私の知らないところで朽ち果てるに違いない。
――そんなのは許さない。
「返さないでいいわ」
どの道、私はもう公爵家に戻るつもりなんかない。
私はもうとっくに、この魔術師に捕まってしまっているのだ。
「じゃあ、旅に出ようか。世界一周なんてどうだい?」
「それは楽しそうね」
私はユーリーの言葉に賛成した。
ここにこのままいたところで、ユーリーを追っているであろう犯行グループの生き残りが来るだろう。
逃げた方が懸命だ。
「君は、魔術師に捕まった可哀想な子だ」
ユーリーが泣きそうな、だけれど幸せそうに顔をゆがめて、私を抱えあげた。
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