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皆は褒め言葉として呼んでくれたのだろうが、今となっては別の意味に聞こえる。
何度も婚約破棄され続けて、やさぐれ気味の私は思う。
幼い頃に母を亡くし、五年前に再婚した父が連れてきたのは義妹と、義妹ばかりを優遇する継母だった。
義妹・エレノアは、服でも本でも私のものをなんでも羨ましがり、すべて盗っていった。
父は継母に頭が上がらないらしく、義妹が私のものを盗っても何も言ってくれない。
挙句、継母は金遣いが荒いようで、ウィングフィールド公爵家の家計は火の車に陥っていた。
この婚約は、いわゆる政略結婚だ。
私が伯爵家へ嫁ぐ代わりに、公爵家に融資してもらうことが決まっている。
それでも私は、ヘンリー様のことが好きだった。
――でも、それは今までの話。
「フェリシア?」
差し出されたヘンリー様の手。
今までは、その手を握り返していた。
しかし、今回はそれをはたき落とした。
「申し訳ありませんが、その婚約、破棄させていただきますね」
「……は?」
婚約が結ばれてものの数分で破棄されるだなどと、誰が思うだろう。
ヘンリー様がぽかんとしている。いい気味だ。
「フェリシア! この結婚の意味がわかっているだろう!?」
「ヘンリー様のお相手でしたら、私じゃなくてもよろしいでしょ? エレノアなんていかがかしら」
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