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2話
銀髪の男は、古びた木の杖を持っているようだった。
――この人、魔術師……?
この国には、時たま魔力を持って生まれる人間が存在する。その人たちのことを『魔術師』と呼ぶのだが、実際に目にしたのは初めてだ。
「君たちにはお仕置きだ」
彼が何事かをぼそぼそと呟くだけで、地面の男たちが悶え苦しむ。
「ぐ、ぐえええぇ……ッ」
「ま、待って! 殺さないで……!」
男たちの断末魔にようやく我に返った私は、慌てて魔術師に駆け寄った。
「どうして。この男たちは、君を殺そうとしたんだよ」
「どうしても!」
――あれ……私、この人とどこかで会ったことある?
風に揺れる銀の髪と、薄紫の瞳。眼鏡をかけているせいか余計ミステリアスに見える。
不思議な雰囲気の男性だ。
私は、魔術師なんて存在に会ったことなどないはず。
この男性にも、会ったことがないはず。
それなのに、間近で魔術師の顔を見上げて、私は妙な既視感に襲われてしまった。
「……仕方ないなぁ。君がそう言うなら」
内心困惑している私のことなど知らない魔術師は、杖先をくるりと回した。
それだけで、男たちの苦しみはなくなったらしい。男たちははぁと、深く息を吐き出している。
「ほら、早く逃げな。俺の気が変わらないうちに」
「ひっ、ひいいいい」
魔術師が冷たい視線を男たちに向けると、男たちはどこかへ一目散に逃げていった。
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