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その場に残されたのは、私と魔術師だけ。
男たちが走り去るのを見送ると、魔術師は私の方へ向き直った。
「あ、あの……」
「君、どうしてこんなところにいるのさ?」
「どうしてと言われても」
私はこの男性と初対面のはずだ。
なのに、どうしてそんなことを言われないといけないのだろう。
――本当に初対面?
ふと、思い出す。
先程この魔術師は、私の名前を呼んだ。しかも親しい間柄でしか呼ぶことしかない私の愛称『フェル』と。
「あなたこそ、誰? どうして助けてくれたの?」
私が聞くと、魔術師は酷く困ったように顔をしかめた。
何かを言おうとして口を開きかけ、一旦閉じる。
「……俺はユーリー。ただの魔術師だよ」
「ユーリー……」
名前を繰り返してみるが、やはり私の知り合いではないはずだ。名前に心当たりがない。
「ほら、これをあげるから帰りな。婚約者殿が待っているだろう?」
――なんで私の事情を知ってるのよ。
ユーリーは私の手を掴むと、くるりと手のひらを上向けさせた。
そこにユーリーが手をかざすと、光とともに手のひらサイズの白い花が現れる。その美しい光景に、私は目を……心を、奪われてしまった。
――魔法って、こんなにきれいなの?
「お守りだ。家に着くまで、君のことを守ってくれるだろう」
「家には帰らないわ。婚約は破棄したし、私はもう公爵令嬢じゃないの」
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