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程なくして馬車が止まった。
ヒヒィン、と馬が大きく鳴き、どこかへ走り去っていくひづめの音がする。男たちの声も聞こえなくなる。
――え、な、なにごと……!?
私が動揺していると、ぱちぱちとどこかから何かが燃えるような音がしてきた。
それに、馬車の中が熱くなってきたような……。
――まさか!
はっと周囲を見ると、馬車から火が上がり始めているようだった。
――ああ……、私が薄幸(白光)令嬢だなんて思ったからかしら……?
誘拐された挙句、運悪く馬車が燃え、縛られているせいで逃げられもしないとは……。
確かに元から幸が薄い方だという自覚はあったが、これはさすがに酷い。
ついていないにもほどがあるだろう。
あまりの運の悪さに、気が遠くなってしまう。
――違う。それだけじゃなくて、煙を吸ってしまったからだ。
「けほけほ……っ」
薬のせいで上手く喋れないというのに、煙を吸ったせいで喉が焼けるように熱い。
周囲の火はどんどんと大きくなって、視界が赤く染まる。
――ああ、もう……。
熱くて、苦しくて、何も考えられない……。
「フェリシア!!」
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