【さん!】

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【さん!】

ーSide 天野ちなみ 「あの、ここ間違ってますよ」  家庭教師のヨシダシロタは最近憔悴している。困る。非常に困る。有名私立大学の人だかなんだかで、教え方は凄く上手いのに、最近は意識が散漫だ。  見た目はまぁ、カッコいい。爽やかな文化系って感じで、清潔感がある。バンドのライブに行って1つだけグッズを買ってニヤニヤしてそうな人。でも、嫌な感じじゃない。 「ねぇ、聞いてます?」 「ん、あ、あぁ! ごめん! 大根剣士だっけ」 (替えてもらおうかな)  高校3年の春。受験勉強も本腰を入れなければならない時期だ。模試はA判定。だけど、ママはS判定が取れるまで絶対に私を自由にしてくれない。 (私には悠長にしていられる時間なんてないんだから) 「じゃあ、兼好法師、徒然草の十四段を読んでいこうか。教科書にない範囲でも一度読んでおくと本番で出たときに意味を推察しやすくなるから」
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