第七皇子のしあわせ

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 森の色が見られなくなったことは、もちろん残念ではありました。  けれども。僕には他にも、多くのものがありました。    そのひとつが、週に1度だけ許される、書庫で過ごす時間でした。  塔の地下にある古い書庫には、多くの書籍が積まれていました。  中でも僕の目を引いたのは、世界の様々なことを教えてくれる図鑑でした。鉱物図鑑に描かれた結晶たちの輝きは、何時間でも僕の心を引きつけてやみません。何巻にも分けて収蔵された植物図鑑の絵図たちは、なかでもいちばん美しいものでした。世界には、なんと多くの花があるのだろう。世界には、なんと多くの色があるのだろう。  地下深くにある窓のない書庫でしたが、そこには確かに世界の輝きがありました。僕にとっての、世界のすべてがそこにあったと言ってもよいでしょう。そこには過去の人々の知恵がありました。世界のあらゆる風景がありました。そこには人々の暮らしがありました。そこには過去に生きた人たちの悲しみがあり、生きる喜びがありました。書庫は僕にとっての先生でした。僕が知りたいものごとは、ぜんぶそこの本たちが教えてくれたのです。  
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