君の好きな人は、私の友だち。……だったはず。

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アルバムの7曲目に入っている和田の1番好きな曲。タイトルは“スーパー撥水加工”。 客電が消えて音効さんがオープニングのSEを流した。ステージにメンバー4人の影が映ってステージから客席に光が降り注いだ。 それからの1曲目が“スーパー撥水加工”だった。 和田が思わず私に抱きついてきた。 「やばい!やばいって!結奈!」 ゆ…結奈って言った? ステージの真ん中の黒縁メガネボーカルと目があった。ボーカルの名前はたしか(すぐる)だった気がする。 「ぶち上がれー!!」 傑は私と和田を指差してきた。 和田は私と肩を組んで左手を挙げているから、なんだかもうこのノリについていくしかないようで右手をあげて、覚えたばかりの歌を、ライブ中何曲も何曲も大声で歌った。 和田と目が合うたびに、和田はニコニコ笑うからなぜか嬉しくてたまらなかった。 中盤、和田が泣いてるのがわかった。 和田が泣いていた歌は、バラード曲だった。 「俺の恋なんて、ただの憧れだったかもしれない。」 帰りの電車で和田がポツリといった。 「え?」 「誰かを好きにならなきゃならないって。それで好きになるなら簡単に手が届かない人なんだろうなって。勝手に思ってた。」 私と和田は、“不時着眼鏡と皺加工”のライブTシャツを着たままだった。首にタオルもかけたままで。バッグには、アクキーをつけている。 いかにもライブ帰りの格好で電車に乗っている。 「どうしたの?急に。」 「古内には俺は明らかに不釣り合いだった。」 「ちょ、まだ好きなん?もう諦め。」 「諦めたよ。…てか、最初から上手く話せなかったし。諦めてた。変に緊張したんだ。なんか。」 「……好きだから、じゃん。そんなの。」 和田に手を握られた。 「結奈、ちっちゃいからどっかいっちゃわないように握っとくわ、手。」 また、結奈って。 昔は、私も和田を“智也くん”とか“ともくん”とか呼んでた。でも、小3の時、和田がそれでクラスの男子に揶揄われ始めて。 それから私は、和田を“和田くん”とか“和田”とか呼び始めたんだった。合わせるように和田も“杉野”って呼び始めたんだ。 「俺もう、我慢すんのやめた。」 駅を出てからも、和田は私と手を繋いできた。 「何が?…てか。もう私。迷子になるような場所じゃないよ。この辺は庭だし。」
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