君の好きな人は、私の友だち。……だったはず。

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「俺きょう、楽しかった。結奈は?」 我を忘れるほどに歌う和田の隣で楽しくなかったわけないじゃん。 「楽しかったよ。」 「だよな。」 和田が手を離さないまま、シャッターの降りた商店街を歩く。アーケードがあるからLEDライトが点っていて道は明るい。 「本当のこと言っていい?」 「え。」 「お前が室井とうまくいかなくて良かったって、ずっと思ってる。」 「え、ひど。」 でも、私も。和田を茉莉花にとられなくて良かったってそう思う。……あれ?なんで、そう思うの? 「それってさ、お互い失恋仲間みたいな意味?」 「まあ、…」 「え?」 和田は握った方の手を大袈裟に振って鼻歌を歌い始める。 「“愛が正義とか 恋が悪だとか      逃げたい逃げたいって       必死にもがいたって”」 「“希なさいとか 夢を見なさいなんて   雲を掴むようなこと    押し付けられたって”」 「“息ができない   涙堪えなくても怒らないで    僕は弱くて 小さい人間だ  この一歩、踏み出すのが怖いよ   勇気なんかないよ 情けなくて     地に足つけない 愚か者だよ”」 「“だから君が連れていって   ぼくをここから連れ出して”……」    和田の歌を聞きながら、ライブの余韻に浸る。和田が今歌ってるのが“スーパー撥水加工”。 「智也。」 「…ん?」 つい名前で呼んでしまった。何年振りかな。それなのに和田は自然だ。 「抱きつくのは反則だわ。男友だちじゃないよ、私。」 「…そだね。」 「反省しな。」 「反省しない。」 「は?」 繋いだ手に力が入った。 「ちょ、痛いけど?」 私が顔を顰めると和田が笑う。 「あ。離したくなくて。つい。」 え。
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