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ガタン。
大きく縦に車が揺れ、ハッと我に返る。
車の中には俺以外にも何人か護送中の者がおり、揃いも揃って魚が死んだような目をしていやがった。死刑囚同士仲良くやろうという気概がある奴は一人もおらず、皆この世の終わりみたいに下を向いて口を閉ざしている。
非常に座り心地の悪い椅子に腰かけ、これからどうしたもんかと思案する。はっきり言えば絶望しかない。あれだけ弾痕を調べてくれといってもまともに調べてくれなかった連中だ。こっちのことを悪党としか認識してないからそういう杜撰な調査になるのだろうが、もはや後の祭り。刑が執行されるまで娑婆に出られる僅かな可能性にかけて粛々と大人しくしているしかないのか。いや、そんな希望にすがるわけにはいかない。どうすりゃいい。
俺は頭を抱えた。どうしようもない。八方塞がりだ。
その時だ。
ガツンという大きな音と共に、車が蛇行運転を始めたのだ。揺れを直そうとしているのだろうか、ハンドルを何度も切り替えしているのがわかる。車体が大きい分、その反動は大きく、搭乗者達は全員ボールのように転げまわった。
「おい、なんなんだよ。運転くらいしっかりしやがれ!」
誰かが毒づくが、揺れは一向に収まる気配がなく、どんどん大きくなってきている。そして、数秒の後、天地がひっくり返った。俺達は全員、身体を側面に打ち付けた。意識が飛びそうになるほどの衝撃が全身を襲い、悶絶してしまった。
どのくらい時間が経ったろうか。俺はのっそり起き上がり、周囲の様子を伺った。仲間達はピクリとも動かない。何人かの身体を揺すって声をかけてみるが、反応はない。全員気絶してしまっているようだった。
「ちくしょう、なんだってこんなことに」
せめて運転席の馬鹿野郎に文句の一つでもつけてやろうと、外に出ようと試みる。外側からしか開かない構造になっている車だが、横転の衝撃で扉そのものが歪んだのか、半分ほど口を開けていた。力任せに扉を押し引きすると、ガキッと大きな音をたてて、そいつはぶっ壊れた。よし、と俺は颯爽と運転席へと回り込む。
「おい、この下手糞!免許もってん……」
途中で声を失った。
運転手のソイツは頭から大量に出血していたのだ。目はカッと見開かれ、呼吸をしている様子はない。死んでいたのだ。エミリーの時と同じだった。徐々に身体から熱が抜けていくのが分かる、あの感覚。それがまた目の前で起こっていた。へなへなとへたり込むと目には涙を浮かべていた。どこの誰か知らない運転手であったが、目の前で人が死んでゆくのをみるのはもう勘弁だと心底そう思ったら自然と涙が頬を伝ったのだ。
俺はしばし悲しみの液体を流すと、力なく立ち上がり、車内にあった自分の証拠品、拳銃や荷物を探しあてると歩き出した。
何処へ行くアテもない。俺の旅。それが始まったのだ。
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