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第5章 仕掛けられた罠
ある日、ローザが庭で伸びた夏草を刈っていると、調理師見習いのレオが神妙な面持ちで呼びにきた。
「マルグリッド様がローザに話があるって。すぐに広間へ行って」
気まずそうに告げるその表情から、いい話でないことはすぐにわかった。
急いで広間に行くと、椅子に座ったままマルグリッドは、大袈裟にため息をついた。
「どうして呼ばれたか身に覚えはありますか」
アベルとのことに違いないと思ったが、なんと答えてよいかわからず、ぐっと押し黙った。
「これがあなたの部屋から見つかりました」
そう言ってマルグリッドは、緑色の大きな宝石のついた指輪をテーブルの上に置いた。
「見覚えはありますか?」
「いいえ。見たこともありません」
「これはアベルの母親が、亡き私の弟からもらった婚約指輪です。蔵で保管していたものがなくなったので、最後に掃除したあなたの部屋を調べたら見つかりました」
窃盗の疑いをかけられていると知り、真っ青になり足が震えた。
「あなたの母親は、アベルの療養と教育に尽力してくれました。ですから、あなたたち母子には伯爵家としてよくしてきたつもりです。聞けば、度々アベルと二人きりになっているようですね。指輪のほかにも、あなたのお給金では買えないような高価なものがありました」
「それは……」
アベルからもらったのだと言おうとして口をつぐんだ。二人の関係が明らかになれば、アベルも責められるかもしれない。
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