第5章 仕掛けられた罠

1/13
前へ
/112ページ
次へ

第5章 仕掛けられた罠

 ある日、ローザが庭で伸びた夏草を刈っていると、調理師見習いのレオが神妙な面持ちで呼びにきた。 「マルグリッド様がローザに話があるって。すぐに広間へ行って」  気まずそうに告げるその表情から、いい話でないことはすぐにわかった。  急いで広間に行くと、椅子に座ったままマルグリッドは、大袈裟にため息をついた。 「どうして呼ばれたか身に覚えはありますか」  アベルとのことに違いないと思ったが、なんと答えてよいかわからず、ぐっと押し黙った。 「これがあなたの部屋から見つかりました」  そう言ってマルグリッドは、緑色の大きな宝石のついた指輪をテーブルの上に置いた。 「見覚えはありますか?」 「いいえ。見たこともありません」 「これはアベルの母親が、亡き私の弟からもらった婚約指輪です。蔵で保管していたものがなくなったので、最後に掃除したあなたの部屋を調べたら見つかりました」  窃盗の疑いをかけられていると知り、真っ青になり足が震えた。 「あなたの母親は、アベルの療養と教育に尽力してくれました。ですから、あなたたち母子には伯爵家としてよくしてきたつもりです。聞けば、度々アベルと二人きりになっているようですね。指輪のほかにも、あなたのお給金では買えないような高価なものがありました」 「それは……」  アベルからもらったのだと言おうとして口をつぐんだ。二人の関係が明らかになれば、アベルも責められるかもしれない。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加