第4章 惹かれ合う魂

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 父亡きあとマルグリッドは、父の財産をアベルのために管理するとの名目ですべての実務を執り行い、なにも知らされていなかったから、あらゆる面から調査する必要があった。  父の葬儀が終わると同時に、すべての書類は伯母によって持ち去られてしまった。  マルグリッドが管理するディノワール家の権利書類を取り返し、爵位を継ぎ名実ともに実権を取り戻すまでは、もう少し時間がかかる。それまでにすべきことはまだ残っていた。  半年後に控えた卒業とともに、自分の人生を取り戻すつもりだ。  駆け足で去ったローザの後ろ姿を見送り、アベルは鍵のついた引き出しの中の書類を取り出した。   「お前の読みは正しかった」  アベルの部屋を訪れたジョゼフが、思わせぶりに書類の束をもって読み上げる。 「リゼット嬢のデュメリー家の資金繰りは、かなり厳しいらしい。あの堅物そうなお父上も見た目によらず、どうやらギャンブル狂いのようでね。あまり柄のよくない賭場でこさえた借金が膨れ上がっているようだ。まともじゃない金貸しに借りたようで、たちが悪いのに脅されているようだよ。大分追いつめられてる。元々は子孫ともども遊んで暮らせるほどの大貴族だが、このままじゃ破産もありうる。これがばれたら次期宰相の話も立ち消えるはずだ。結婚したら間違いなく、お前の会社運営にも口出しして下手したら乗っ取られるな。このことを知っているとちらつかせれば、婚約の話は円満になかったものとできるはずだ」 「なるほど。感謝する」
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