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「僕がよく遊んでいるご婦人が、デュメリー公爵家と交流があってね。教えてくれた。あとはまあ、その裏を取っただけだよ。君にいい加減な情報を渡したくないからね。その代わり報酬は頼むよ」
「君のとこの海運会社と専属契約を結ぶ。これでいいんだろう?」
「そうそう、そう来なくっちゃ。それにしても、かわいそうなのはリゼット嬢さ。親父のギャンブル狂いのせいで、金持ちを引っかけるよう圧力をかけられているんだろう。親の尻ぬぐいするために、身を売るとは泣かせるじゃないか。なかなかそそられる」
デュメリー公爵家の権力を考えると、理由なく縁談を断れば面倒なことになると思ったアベルは、デュメリー公爵家の内情をジョゼフに頼んで調べさせた。
いささか軽薄なところもあるが、こういう面では有能な頼れる友人だった。アベルより一年早く卒業したジョゼフは、豊富な人脈を使って探偵役をこなしてくれた。
「もうひとつ、君の伯母上のこともきちんと調べたよ。こちらもろくでもない夫をもったばかりに、かなり金銭的に厳しいようだ。こっちの場合ギャンブルじゃなくて、女がらみだね。哀れな君の伯母上は、夫が女に貢ぐ金まで調達してあげている。妻の鏡だね。金の出どころが君の父上の遺産というのは、君にとっていい知らせではないけど」
アベルが口を挟む。
「いや、いい知らせだね。はした金を盗らせて伯母の弱みが握れるなら」
伯母にはこの家のことから手を引いてもらう口実ができたと思えばよい。
すべては順調だ。あと少しでカードが揃う。
慎重なアベルは勝てないゲームは挑まない。ただこの時だけは、慎重になりすぎたことを激しく後悔することになる。
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