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アベルと結婚という形で結ばれることのむずかしさは。
けれども、願望や恋心が現実を見る目を曇らせたのだと、今になって気づいた。
マルグリッドの話したアベルの両親の過去が胸に突き刺さる。
このままリゼットとの婚約を控えたアベルと離れられずにいたら、彼の母のような不幸な人を自分が作ってしまうのかもしれない。
マルグリッドは二人の気持ちに前から気づいていて、引き離すタイミングを待っていたのだ。
アベルが寄宿学校を卒業し、この邸に帰る前にローザと引き離すつもりなのだ。
やり方は卑怯だが、甥の輝かしい未来を脅かすかもしれないローザを追い出すのは、正しい判断なのかもしれなかった。
「アベルをたぶらかしたこと、指輪を盗んだこと、どちらかひとつでも大罪です。使用人の罪は、この国では主人が罰してよいことになっています。アベルの父亡きあとは後見人のわたくしが、あなたの処罰を決めることになります。あなたは処分が決まるまで部屋で謹慎なさい」
広間を出たローザは、血の気が引いてフラフラと廊下に倒れこんだ。心配して廊下で話を聞いていたらしいレオに、抱き上げられる。
「俺からも、マルグリッド様に処分を軽くしてもらうようお願いするから」
優しかったレオさえ、ローザの窃盗を信じているのだと思うと否定する気力すら起きなくなり、レオの支えを振り払って自室に戻る。
部屋は散々調べられたようで、ローザの少ない持ち物も床にすべてぶちまけられていた。アベルからのプレゼントも持ち去られたようだ。
ひとつ残された母がもらった膝掛けを見つけ、ローザはしがみついて声をあげて泣き続けた。
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