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プロローグ
外から響く雨音が、室内から漏れる吐息をかき消していた。
分厚いカーテンの向こうでは、もうずっと雨が降っている。真っ暗な部屋に雷光が差し込み、一瞬二人がいる部屋を照らし出した。
哀れむような慈しむような複雑な色をしたアベルの瞳が、ローザを見下ろしていた。
彼の瞳は透明な湖のようだ。のぞきこむと、その深遠さに引きずり込まれてしまいそうで怖くなる。
アベルは多くを語らない。
そのことはいつもローザを不安にさせる。触れ合う肌から感じるのは、彼の渇きと飢えだった。
長い髪の毛だけが、申し訳程度にローザの体を覆っていた。その髪が涙と汗であちこちに張りついて、ひどく痛々しい。
アベルの金色の前髪の間から、青い目がのぞいている。いつもは涼しげな瞳の中で、暖炉の火が揺れていた。
熱い。
心のどこかで、アベルにこうした一面があることは気づいていた気がする。
距離を置こうとした時も、そばにいることを選んだ時も、ローザは心のどこかでアベルが怖かった。それは野生動物がもつような、本能的な勘だった。
端正な顔立ちの奥にある凄絶な気質がもたらす行為は、ローザに恐怖とある種の陶酔を与えた。
ローザが恨みがましい目でアベルを見つめると、彼はスカートについていたリボンで目隠しをした。
「そんな目で見られると、罪悪感でいたたまれなくなる」
勝手なことを言って、アベルは自由をまたひとつ奪った。
「心の中で、僕が何度君にこうしたか、考えたことある? 君が僕に背を向けるたびに、君のことをめちゃくちゃにしたいって思ってた」
言いながら、ローザの足を開いて一気に貫いた。
「そんなの知らない」
白く柔らかな肌が紅く染まり、熱っぽくなった肌から透明な雫が胸の膨らみの間を落ちていく。
この数日で、体中の水分をずいぶん失ったような気がする。
すでに何度も、アベルに暴かれたそこは、すんなりと侵入を許してしまう。
抵抗しても無駄なことをローザは知っている。抗えない流れに足を踏み入れたが最後、行きつくところまで行くしかない。
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