2人の時間

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2人の時間

――――その後、ルースとアンナはどうなったかと言うと。 私をロイさまから奪おうとした罪で鞭打ちの刑に処された後、ルースは犯罪人として人族の国に引き渡されたという。多額の賠償金と引き換えに。 その後、この国の王族を侮辱したとして、ルースは王族の資格を剥奪された。そして元王族と言うこともあり、生涯塔に幽閉されることになった。 そして、人族の国に引き渡されたのは、実はルースだけである。アンナは公爵家からすでに追放されているので平民のままだ。つまり、人族の国が多額の賠償金を支払ってまで取り戻す必要はないのだ。更には隣国の王族を直接侮辱したわけではないため、処刑は免れたが、死ぬまで犯罪奴隷として僻地でこき使われるらしい。 なお、王太子殿下から私に何か希望がないかを尋ねられたので、奴隷契約時にビッチ癖が出ないよう、男性との関係を持てないように盛り込んでもらった。男性に触っただけでアンナの全身に激痛が走る。 我が義妹ながら、長年にわたって被害を受けてきた私とロバート兄さまに彼女への情などない。命があるだけましだと思ってほしい。 あの後、色々と爵位継承のごたごたが落ち着いたというロバート兄さまから書状が届き、第2王子殿下が立太子し、ロバート兄さまはその側近の地位に就いたらしい。ロバート兄さまったらちゃっかりしているなぁ。でも、ロバート兄さまと第2王子殿下ならば、祖国をいい方に導いてくれるだろう。 「ビアンカ」 ふと、ロバート兄さまからの手紙を読みふけっていれば、ロイさまの声が頭上でして影がのそっと私の身体を覆う。 「ロイさま」 「そろそろ、ビアンカが足りない」 そう言って、私を後ろから抱きしめてくる。 獣人族は伴侶を大事にする。ぶっちゃけ溺愛症な気がする。まぁ、それはお義母さまとお義父さまを見ていてもわかる。 アルくんもいずれはそんな大事な伴侶を見つけたいと言っていた。 因みに双子ちゃんの場合は……その手の話をするとみんな過保護満載でまだ早いと口をそろえる。うん、私もそう思う――――っ! まぁ、そんなわけで、あの一件があって以来、ロイさまの溺愛症もどんどん過敏になってきている。ロバート兄さまからの手紙を読んでいる時間も何だか不満らしい。 くまさんお耳が何となくしょんぼりとなっているように見える。 「お茶にしましょっか」 「あぁ、そうだな」 そう言うと、ロイさまも私の隣に腰を掛ける。メイドたちがお茶菓子を出してくれて、いつもの静かな時間が流れる。 「そう言えば、ロイさまは武術を嗜むのですか?」 ごつごつとした大きな手が、それを物語っているような気がする。 「あぁ、近衛騎士団に所属している」 けほっ、こほっ。 今、盛大に吹きかけたわぁ――――っ! 「お、王太子殿下とも仲がよろしくて……」 「専属の護衛対象だからな」 しかもまさかの王太子殿下付き!! ロイさまってすごい優良物件だった。まぁ、そこだけじゃなくて中身もすごく優しくて、くまさんお耳もしっぽも最高なのだけど。まさかロイさまが近衛騎士だとは思わなかった。 「お、お忙しそうですよね」 「あぁ、だが妻との時間が一番だ。獣人族はそれを最も大切にしている」 「そ、それは嬉しいです」 「あぁ、だからできる限りビアンカを愛でたい」 わ、私を愛でるってっ!面と向かって言われるとやっぱり照れる。 「ビアンカ、抱きしめていい?」 「ま、まぁ」 コクンと頷けば、そっと腰に腕を回されて抱き寄せられる。ロイさまの逞しい身体に抱き寄せられたかと思えば、そのまま膝の下にすっと腕を入れられすとんとロイさまの膝の上に座らされてしまい、そのまま抱きしめられてしまった。 「ちょっ!?ロイさまっ!?」 「うん、ビアンカを思う存分堪能できる」 ロイさまが満足げにそう告げて、ほんのりくまさんお耳が赤くなっているのが見えた。 やっぱりロイさまはかわいいな。そう思いながら、私はロイさまの腕に身を任せたのだった。 (完)
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