夫婦の部屋

1/1
前へ
/10ページ
次へ

夫婦の部屋

お義父さまと私の旦那さまとの顔合わせ……いや、お面合わせを済ませれば、まだたじたじしている義父子に代わり、お義母さまが仕切ってくださる。ありがたいことである。 「さ、ロイ。ビアンカちゃんを夫婦のお部屋に案内して差し上げて」 「……っ」 コクンっとお面をつけたままのロイさまが頷けば、のそっと立ち上がり、そして私の前にやってきた。 目の前に立つと……おっきい。 そしてすっと手を差し出してきた。ごつごつとした手。やはり武道を嗜まれているのだろうか。緊張しつつもその手の上に私も手を添えれば、刹那ぐいっと引き起こされた。 「きゃっ」 そしてそのまま胸元にダイブさせられると思えば、急に手を引く力が弱まり、背中をそっと支えられる。 「……す、済まない。か、加減が」 慣れていらっしゃらなかったのだろうか。 「い、いえ。ありがとう」 「……っ!!」 何だろう。今猛烈に背景にお花が咲き誇ったような幻影が見えたような。 「さぁ、おにーたんとおねーたんはこれからふたりで……きゃっ!だからいい子でお部屋行こうね~~」 と、その左右ではお義母さまとアルくんが双子ちゃんたちを回収していた。あぁ、私のかわいい双子ちゃ~~んっ!しかしながら、今は私の旦那さまである。そして『きゃっ』って何だろうお義母さま。 しかしながら、その後のロイさまは何だか緊張しながら私をエスコートしていらっしゃる。 だけども……。 「あの、もっと早くても大丈夫ですよ?」 何だろうこの亀さん歩行。 のっそ、のっそ。 ちょっとかわいくもあるんだけども。 「……では、もう少し」 「はい」 そして4~5回試行錯誤の末、やっと普通の歩行になった気がする。んもぅ、身体は大きいのに、やっぱりかわいいなぁ。 *** 使用人に案内させることもあるのに、わざわざ旦那さまになるロイさまが自ら案内してくれるのも、何だか幸せなのかもしれない。 行き交う使用人たちも丁寧に礼をしてくれて、何だか過ごし良さそうだなぁ。 「……っ」 そして、大きな扉の前に辿り着いた。 「そ、そのっ、えぇと、こ、こここがっ」 「あ、あの。落ち着いてください。まずは深呼吸をっ」 やっぱり女性慣れしていらっしゃらない?いや、慣れすぎてても困る気がするのだが。 「その、は、入るぞ」 「は、はい」 何だかノリとしては立派な洋館風お化け屋敷に入る前のような心境。いや、どこからどうとっても豪華な超豪邸なのだけども。 ロイさまが扉を開けてくださると、その中はとても広々としている。そして部屋の中央には夫婦ふたりで使うと思われる大きなベッドがあった。 「あ、あのっ」 「これが私たちがふたりで使うお部屋なのですね。ステキです」 「ふ、ふたり、で……い、いいのか」 え?だって夫婦になるわけだし。 「ロイさまがよろしければ、喜んで」 「よ、よろこ……もごもご、そうか。こ、こちらへ」 そうして、ベッドの前までエスコートされたので、早速ぽふんとベッドに腰をおろしてみる。わぁ、ふっかふかぁ。 「とても寝心地がよさそうです」 「ね、寝心地……その、がんばる」 何をだ!? でも何だかかわいらしい旦那さまで良かった。――――でも気になるのはやっぱりきつね面よねぇ。てか、やっぱり何できつね面をつけているのか。聞いていいんだろうか。それとも聞いたらいけないんだろうか。まさかアレが見えているのは私だけ? 私は意を決して立ち上がった。 「……?」 ロイさまが何だろうと首を傾げる。 くまさんお耳、触りた……じゃなかった。 私はゆっくりとロイさまのお面に手を伸ばす。 ゴクリ。 ぴとっ 手に触れたのは、お面のすべすべとした質感。 ――――ある。確実に、顔の表面にお面が、ある!私にだけ見える幻とかではなかった! 「そ、その……この後は、夕飯だ」 「はい」 そう言えばそろそろお腹が空いてきたかも。 「き、着替えて、くる」 「は、はい。そうだ、私も」 旅装のままだし。 「すぐに、使用人を呼ぶ。因みに、あちらが俺の部屋に通じる続き扉。反対側が、その、び、びび、ビアンカの、部屋……だ」 私の名前噛みすぎでは……?いや、緊張しているだけだろうけども。 「は、はい」 頷けば、ロイさまは自身の私室に向かう。 暫くするとメイドたちが着てくれたので、お気に入りのワンピースを出そうと思ったら、是非これをと示された服に袖を通す。黒いシックなワンピースである。 そして持ってきたアクセサリーの中から、メイドたちが絶対これと推してきた銀色の宝石が付いたネックレスを身に付ける。 「これでロイさまもイチコロですよ!」 え、イチコロってどういう意味? 「ロイさまはむっつりなだけで本当は優しいんです!」 「ファイトです奥さま!!」 「あ、ありがとう?」 メイドたちに応援されて部屋を出れば、ちょうどロイさまも私室の外扉から出てきたところだった。 あれ、待って。 何にも変わってなくない?服も靴も、変わった感じがな……あっ、ま、まさかっ! 私はロイさまの口元に目を向ける。 きつね面の口元が食事用にオープンになっているぅっ! まさか着替えって、単に食事用お面に付け替えただけかあああぁぁぁいっっ!!!
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加