機は熟せけり

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機は熟せけり

――――それは運命の日。そして、決意の日。 「ビアンカ・ローズ公爵令嬢!貴様との婚約を、破棄する!」 金髪エメグリ眼の人族の国の第1王子・ルースが私に婚約破棄を告げてきた。ふむふむ、そうですか。それを冷たく見据えながら視線を下ろせば。 その胸元には、ピンク髪にピンク色の瞳の私の義妹・アンナが収まっている。 この女……アンナは私とロバート兄さまが子どもの時に我がローズ公爵家に引き取られた父の庶子だ。 まぁ、私は元日本人の記憶があるせいか父の不倫はショックでもあったが、この世界の貴族としては珍しいことでもないそうだ。 それよりも、私はアンナが子どもの頃から想像以上の尻軽であったことに衝撃を受けた。男と見れば誰彼構わず擦り寄り尻を振る。 そんなわけで私の婚約者である王子に彼女が手を出すことは目に見えていたわけだけど。まさか本当に手を出すとは。今のところロバート兄さまととっている記録によると、ルースは101番目、現在17股中。アンナお前、尻軽が過ぎるだろ、オイ。 「そうですか、ではそのようにどうぞ」 私はそれだけ告げて踵を返し、馬車に飛び乗り真っ先に公爵邸へと帰邸した。 公爵邸では現在、ロバート兄さまが爵位継承の準備中である。愚かにも不倫をしやがった我が父は、先日病で帰らぬひととなった。だから既にロバート兄さまが次期公爵に内定しているのだ。 いやはや、実はまだ我が父の喪中なのだが、アンナはそんな状況でよくもまぁ寝取り17股できたものだ。全く。 そう思いつつも、機は熟せけり……! 「ロバート兄さま!あのバカ王子に遂に婚約破棄されましたわ!私はこれで自由の身です!」 ロバート兄さまの執務室に入るなりそう告げた私に、銀髪に青い瞳を持つ絶世の美男・ロバート兄さまが顔を輝かせた。くぅっ!イケメンが眩しすっ! 「そうか!もう縁談については話がついている!あのピンク頭が手を出し始めた時点で今か今かと手をこまねいていたが、遂にやったな!」 「えぇ、ロバート兄さま!」 全てはロバート兄さまと私の策の内。ピンク頭……アンナの尻軽には今まで頭を悩まされて来たものの、今回ばかりは礼を言ってやってもいい。しかし、今は王宮から呼び出しを受ける前に動かねば! 「荷物は後日送る!隣国行きの馬車はいつでも準備万端だ!早速乗り込め!」 「ラジャーですわ、ロバート兄さま!」 こう言う場合、領地に引っ込ませるのもひとつの手かもしれないが、ウチの領地は王都に近いのだ。だから領地まで王家の使者が来てしまえば王宮への呼び出しに応じるほかない。だからこそ私とロバート兄さまは更なる一手を打ち出した。それが隣国・獣人族の国への出奔&嫁入り作戦である。もちろんお相手ともロバート兄さまが内々に話を進めてくださっている。尻軽ピンクにうつつを抜かしていたバカ王子は決して気がつくまい! 私はいつでも持ち出せるよう準備していた鞄を2、3個馬車に積んでもらい、早速馬車に乗り込み隣国へと出奔したのであった。 さて、私の嫁入り先はもふもふ天国……あぁ、いやつい本音が。どんなところなのか今からでもとっても楽しみね!
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