妹は歌う、だから私も

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     翌日。  いつも蒼香が使う路線で、朱美は電車に揺られていた。  蒼香の話では、同じように電車で寝過ごせば、昨夜の場所に辿り着く手筈になっているらしい。それも神様の不思議な力によるのだろう。  それを聞いた上で、蒼香の身代わりを引き受けたのだった。 「あなたは心配せず、デートを楽しんでらっしゃい。神様たちの相手は、私がやっておくから」  蒼香は「でも私が行かないと、ほくろが……」と渋っていたが、そこは上手く丸め込んだ。  さらなる再訪を約束して、ほくろは次回に返してもらうよう言っておけばいい。もちろん、その時は蒼香自身が出向く形で。  そのようなプランを、朱美は蒼香に伝えたのだ。  しかし内心では、少し違うことも考えていた。 「場合によっては、あの子のほくろ、私がもらっちゃってもいいのよね」  乗客の少ない電車の中で、朱美は小声で独り言を口にする。 「だって、私も……」  蒼香と同様、いや蒼香以上に、歌うことは大好きだ。今でも趣味で音楽は続けているし、同じ双子なのだから、潜在的な才能は妹に負けていないはず。  朱美の中には、そんな自負があった。  大学受験の時は、たまたま試験官の嗜好に合わなかっただけ。神様の前で歌って、妹と遜色ないと認められるのであれば、それこそが正しい評価なのだ。  そんな「正しい評価」が(くだ)された暁には、自分が『蒼香』になっても構わないではないか。 「いつまでもピーナッツじゃ嫌だもんね」  明るい未来を思い描きながら、電車の心地よい揺れに身を任せ、朱美は眠りにつくのだった。    
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