私と亮

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『……綺麗……』 『ペリドット』 『ん?』 『八月の誕生石。あとはエメラルドとかダイヤ』 『えっ!? ペリドット!? 本物の宝石じゃん!』  てっきりプチプラだと思っていたので、驚いて大きな声を出してしまった。 『……すげぇな。今までで一番の反応だ。やっぱり女って宝石好きなのか』 『そ、そうじゃなくて……。待って? びっくりして何が何だか……』  亮は指輪を持ったまま固まっている私を無視し、立ちあがると『つけてやるよ』と私の手をとった。 『……ほっせぇ指』  彼は溜め息混じりに言い、私の左手の薬指に指輪を嵌める。  私はボーッとしてその様子を見ていたけれど、『ん?』となった。 『ちょっと、この指って駄目でしょ。人差し指とか……』  そう言いながら指輪を付け替えようとすると、亮に手を握られ、手の甲にキスをされた。 『へっ?』  私は素の声を出し、まじまじと弟を見る。  亮は少し長めの前髪の陰から、ジッと私を見つめている。  口数があまり多くない分、彼は目でものを言っている気がする。  目力が強いというのか、とにかくこの子はものを凝視する癖があった。  亮に見つめられてまた固まっていると、彼は私の手を握ったまま小首を傾げて尋ねてきた。 『嬉しい?』 『う……嬉しい。ありがとう』  ハッと我に返って頷くと、亮は『そっか』と私の頭を撫でてきた。 『やめてよ』  十八歳の亮はすでに百八十センチを超える高身長で、見下ろされるのはいつもの事だけど、頭を撫でられると子供扱いされているみたいで腹が立つ。 『……ありがたいけど、高校生が宝石なんて買えるの?』  彼はお坊ちゃまだから、金銭的には問題ないのかもしれないけど、本物のジュエリーなんて子供からもらうプレゼントじゃない。 『別に、金ならあるし』  ぶっきらぼうに言われたその時は、お小遣いやお年玉を貯めているのだと思っていた。  でも亮は小学生頃から継父に投資のいろはを教えられて始め、十八歳の時にはかなりの額の資産を保有していた。  ……のを知らされるのは、かなりあとの事になる。 『……私、亮の誕生日に大したものをあげられてない。ごめんね。今度何か欲しい物があったら言って』  亮は十一月十日生まれのさそり座で、毎年あげているプレゼントといえば、男の子に人気のブランドのTシャツや帽子ぐらいだ。 『いいよ』 『え? でも……』 『大したもんじゃないって言っただろ』 『でも宝石だし、ゼロ円じゃないから』 『…………強情な女だな』  溜め息をついた亮はまたベッドに座り、仕方なく、私ももう一つのベッドに座った。 『欲しい物とか、してほしい事があったらいつでも言って。食べたい物があったら修行中だけど頑張る』  ……と言うものの、亮は私より格が上の料理男子だ。  家に一人になってもカップ麺やインスタントに頼らず、自分で料理を作り、元々かなり凝ってるタイプなのか、定期的に鍋やシンクをピカピカに磨き、包丁まで研いでいた。  彼の作る物はプロ並みに美味しく、普通の家庭料理しか作れない私はとても肩身の狭い思いをしている。  ハーブを使ってオーブンでお肉を焼くとか、自家製パスタソースを作るとか、中華も〝素〟を使わずに作っちゃうし、凄い。  なのに私や母がキッチンに立つ時は口を挟まず、作った物を『美味しい』と言ってくれる。  そんなできた弟なので、こちらとしても「作ってあげる」と言いづらいんだけど。 (亮の好きな食べ物って、なんだっけ)  考えていた時、彼がボソッと言う。 『……じゃあ、一つ言う事聞いてくれる?』 『いいよ』  自分にできる事があると分かった私は、パッと表情を輝かせて頷く。  ――けど、亮が求めてきたのは意外な事だった。 『キスして』
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