私と亮

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『…………え?』  一瞬何を言われたのか理解できず、私は何度目かの硬直をする。  ――何言ってるの?  ――確かにまだ懐かれてるとは言いがたいけど、一応姉なんだけど。  ――亮なりのいじめだったりして。  訳が分からないまま黙っていると、彼がつけ加えた。 『キスした事がないんだ。遅れてるって思われるのが嫌だから、練習させて』  ――嘘だ。  とっさに私は心の中で思った。  亮は高身長で顔もいいし、成績もいい上にスポーツ万能だ。  そんな彼がモテないはずがない。  絶対大勢に告白されてるし、女の子が家まで勉強しに来た事だってあった。  黒髪が綺麗な清楚なお嬢さんで、あきらかに亮に気がある表情をしているのを見て、『ああ、青春だな』と思っていた。  ……私を見て、『お姉さん?』ってクスクス笑っていたのは、ちょっと気に食わないけど。 『練習であっても、姉弟でする事じゃないでしょ』 『あれ? 俺のこと意識してんの?』 『しっ、してない! 馬鹿言うな』  赤面したのは、亮を恋愛対象として見ているからじゃない。からかわれたからだ。 『じゃあ、弟とのキスなんてカウントに入らないじゃん』  そうじゃない。私だって未経験だし、弟とファーストキスをするなんて嫌だ。 『初めてじゃないだろ?』  けれどそう言われて、サッと赤面した。  年上なのに〝済ませない〟のが恥ずかしく、『初めて』なんて口が裂けても言えない。  だから――とっさに嘘をついた。 『もっ、勿論、経験済みだけど?』 『じゃあ、教えてくれよ。好きな子がいるから、失敗したくないんだ』  ――好きな子、いるんだ。  ――あの綺麗な子かな。  一瞬そう考えてモヤッとしてしまった自分が嫌だ。  私、なんなの?  姉でしょ? 血が繋がっていなくても、私は亮の姉なんだから。  亮に好きな人がいても関係ないし、キスを教えてって言われても動揺する必要はない。  テンパって自分に言い聞かせた私は、売り言葉に買い言葉で言い返していた。 『れ、練習したいなら亮からしたら? 私はいつもされる側だから、自分からした事ないの』  苦し紛れにそう言ったのは、キスの仕方が分からないからだ。  唇をつければいいのは分かってるけど、友達の失敗談を聞いたら歯がぶつかったというから、未経験の自分にできる訳がないと思って亮に丸投げした。  亮が失敗しても私のせいにはならず、私が初めてとはバレないはず。  言った時、亮はうっすら笑った。 『じゃあ俺からする』  亮は私の前に立ち、見下ろしてくる。  気まずくて視線を逸らしていると、肩に掛かった髪をサラリと払われた。 (練習、弟、ノーカン)  私の心の中で、その言葉を繰り返す。  けれど表向きは、慣れてますよ、と澄ました顔で目を閉じた。  亮は私の頬を両手で包み、顔を仰向かせる。  それだけで心臓がバクバクいい、顔が紅潮してしまいそうで焦る。 (早くして! 照れてるのバレる!)  焦りのあまり、私は眉間に皺を寄せる。  その時、唇に柔らかい物が押しつけられた。 (やわ……っ)  ふにゅ、とマシュマロみたいな物が押し当てられ、ちゅ、ちゅ、と何度かついばんでくる。 (何……? 慣れてる? 初めてじゃなかったの?)  驚いた私は顔を離そうとしたけれど、抱き締められてベッドの上に押し倒された。 『え……っ!?』  ――話が違う!  抵抗しようとしても、また唇を塞がれ、今度は口内にヌルリと舌が入ってきた。 (怖い!)  未知の感覚に、私は体を硬直させる。  それをいい事に、亮は私の口内を蹂躙するようにキスしてきた。 『んっ、んぅ……っ、ん、……んー!』  亮はヌルヌルと私の舌を舐め、嫌なはずなのに体がゾクゾクする。  怯えた私は逃げようとするけれど、亮はしっかりと私を抱き締めて離さない。 『あ……っ、ふ、――う、ぅ、……ん、……んむ、……んっ』  抵抗していたはずなのに、私は気が付けば頭の中を真っ白にし、されるがままになっていた。  最初は信じられないという思いと、驚きで固まっていた。  でも亮のキスに翻弄されるうちに、悔しい事に気持ちよさを覚えて身を委ねてしまった自分がいる。  すっかり亮に圧倒された私は、ワンピースの背中のファスナーを下ろされても、気付けずにいた。
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