私と亮

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『たっぷり濡れてるよ。俺に愛撫されて感じてるんだな』 『っや、……やだ……っ』  また恥ずかしい事を囁かれ、全身にブワッと熱が広がっていく。 『こんなに濡らして、いやらしい音を立ててるだろ? 夕貴は俺に愛撫されて感じてるんだよ。……ちゃんと〝練習〟できてるな?』 『っ――――』 〝練習〟という言葉を思いだした瞬間、自分が弟相手に淫らに感じているのを自覚し、この上ない羞恥を覚えた。 『っやだ、もうやめる……っ』  また暴れた私の顎を、亮はグッと押さえてきた。 『俺だから受け入れたって思わないのか?』 『えっ?』  思っていた事を見透かされ、私はドキッと胸を高鳴らせて呼吸を止める。 「本当に嫌なら殴って抵抗してるはずだ。……そうしないって事は俺の事が好きなんだよ』 『な……っ、何言って……っ、ぁ、あ!』  言い返そうとしたけれど、また大きな波が私を襲ってきた。 『達きそうか?』  亮が私の目を見つめ、嬉しそうに笑って尋ね、グチュヌチュと音を立てて蜜壷を掻き混ぜ、さやから顔を出した淫玉を撫で続ける。 『駄目……っ、ぁ、あぁあああぁ……っ!』  体の奥底からこみ上げた熱が弾け、私は吠えるように声を上げると、蜜壷できつく亮の指を喰い締め、ガクガクと体を痙攣させた。 『……あぁ、可愛い……』  亮が嬉しそうに笑ったのが聞こえたけれど、ボーッとした私は何も答えられなかった。  私は三度達かされてぐったりし、動けなくなってしまった。  亮はそんな私の服をきちんと整え、それ以上は何もしなかった。  最初に言ったように最後までするつもりはなかったらしく、それは本当に幸いだった。  それでも、私たちは大きな一線を越えてしまった。  気だるさから回復した私は暗澹たる気持ちに駆られながら、部屋に充満しているいやらしい匂いを誤魔化すために、窓を開けて換気する。  私は疲れ切ってベッドに仰向けになったまま、ボソリと零した。 『……お母さんに何て言えばいいんだろう』  深く悩んでいるというのに、亮はケロリとして言う。 『言わなきゃいいじゃん。姉ちゃんって、自分の身に起こった事を全部親に話すタイプ?』 『そうじゃないけど……』  こいつ、行為が終わった途端、また『姉ちゃん』って呼び始めた……。  どうにもうまく騙された気持ちになるけれど、今になれば後の祭りだ。  勿論、私にも隠し事はあるし、今回の事はトップシークレットになる。 『……亮ってさ、基本的に何を考えてるか分からないけど、家の手伝をするし〝いい子〟なんだと思ってた。……でも、とんでもない人だね』  恨みがましい目で亮を見ると、彼は魅力的に笑った。 『気付かないほうが悪いんだよ』 『それ、犯罪者の理論だよ』  指摘しても亮は悪びれず、クスクスと笑っていた。  それ以降、亮は何かにつけて私に触るようになり、翌年のバレンタインデーに頼み込まれて根負けし、とうとうエッチする事になってしまった。 『チョコはいらないから、夕貴がほしい』  ある日の夕食後にそう言われて何時間も頼み込まれ、眠気に負けた私はボーッとして頷いてしまったのだ。  私自身、彼に与えられた快楽が忘れられず、本当にセックスしたらどうなるのか知りたかったというのもある。  加えて、人生で一度も行った事のないラブホテルという場所が気になって仕方がなかった。  大学の友達は彼氏とちょいちょいお泊まりしているらしく、そういう経験のない私は遅れている感や疎外感を抱いていた。 『遅れている』という感覚で、弟と初体験を済ませてしまうなんて、あまりに安直で浅はかだ。  秀弥さんと出会うまで、初めてをとっておいたほうが良かったかもしれない。  でもその時の私は新しい生活に馴染むのと、大学デビューして周囲についていくので精一杯だった。  両親の再婚で高校から引っ越し先の学区になったので、〝父親が死んだ可哀想な子〟の扱いは受けていなかったけれど、高校生の時は新しい学校の勉強についていくのに必死だった。  学費は父が出してくれ、金銭的な問題はなく、あとは私の努力次第で入る大学、将来の就職先が決まる。  もともと勉強は頑張っていたほうだけど、高校生はさらに勉強一色になり、晴れて都内の女子大に入れた私は、明るくてイケてる友達に合わせようとしていた。  周りに合わせて処女を捨てる必要なんてないのに、まだ誰とも正式にお付き合いした事のなかった私は、変な焦りを覚えて弟と済ませてしまおうと思ったのだ。 『お互い〝練習〟だから、ノーカンになる。姉ちゃんだって、好きな相手ができた時に〝痛い〟って言ってしらけさせるより、気持ちいい事に慣れていたほうが相手との関係が良好になるだろ。〝処女じゃないと駄目〟なんていう男は、こっちから願い下げだしな?』  亮に囁かれ、私は『確かに……』と思ってしまった。  処女厨と呼ばれる人が一定数いるのは知っていたし、処女じゃないと知っただけで一気に冷めるような男とは付き合いたくない。 (なら〝練習〟して慣れておいたほうがいいのかもしれない)  納得した私は、親に『友達の家に泊まってくる』と言って友人にはアリバイを作ってもらい、亮と一緒に歌舞伎町にある高級ラブホへ向かったのだった。
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