私と亮

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 午前中に家を出たあと、亮とランチを食べ、映画を見て買い物に付き合ってもらった。  まるで彼氏みたいだけど、このデートも〝練習〟だ。  親バレしてるかどうかは微妙なところだけど、私たちは〝仲のいい姉弟〟として買い物や映画に行く事はあったし、それぞれが本当に友達と外泊する事もあった。  外泊が重なる事もあったし、多分気づかれていない……と思う。  明日はチェックアウトしてお昼を食べたあと、バラバラに帰宅する事にしている。  ……アリバイ作りをするのは後ろめたいけど。  デートを終えたあと、私たちは新宿南口にある個室居酒屋で和食のコースを食べ、いざ歌舞伎町二丁目に向かった。  生まれて初めて足を踏み入れた歌舞伎町の雰囲気を、半分好奇心、怖れ半分で堪能したあと、私たちはライトアップされてドンとそびえ立つラブホに入る。 『う……っ』  部屋に入ってすぐ目の前にどでかいベッドがあり、私は怯む。  他には小さなソファがある程度で、あとは色の変わるジェットバスに、露天のジェットバスがある。  何から何まで、エッチするための部屋だ。 『んじゃ、風呂入るか』 『そんなすぐ!?』  悲鳴に似た声を上げたからか、亮は『なんだよ』と言いたげな顔で私を見る。 『ちょ……、ちょっと待ってよ。心の準備がまったくできてないんだから、流れ作業みたいに言われても、私、緊張してて……』 『じゃあ、飲み物でもオーダーするか。夕貴は二十歳になってるから、酒でも飲んだら?』  亮はソファに座ってタブレットを立ち上げ、私は不本意ながらも彼の隣に座る。  チェスターフィールドソファとかいう高見えなソファで、サイズは二人で座るとぴったりだ。 (もっと余裕があってもいいのに……)  恥ずかしく思いながら私はドリンクメニューを覗き、カシスオレンジを頼む事にした。  亮は律儀に法律を守り、ウーロン茶だ。  容姿端麗、頭脳明晰、本物のジュエリーも買う上に姉をラブホに誘う弟だけど、そういうところはちゃんとしている。  ……あとになってから聞いた話だけど、『好きな女を抱く時はシラフがいい』というのが亮の流儀らしかった。 (亮の事、ますます分からなくなってる)  ドリンクが届くまで、亮は『参考にしたいから』と大学の話を聞きたがった。  これもいつもの事で聞き飽きてると思うのに、亮は大学の仕組みや講義の内容、私の交友関係を知りたがる。  私はサークルには入らず、ホテルのカフェスタッフとしてアルバイトをしているけれど、そのバイト先での話も執拗に聞かれた。  アルバイト先を決めるのに迷っていたら、亮が『ホテルのカフェやレストランだと、変な客が少なくていいんじゃないか?』と言って『確かに』と思ってそうする事にした。  英語力を確かめられる職場でもあるし、落ち着いた雰囲気や高級感のある職場が気に入っている。  亮は『東京に住んでいると、東京のホテルにはあまり行かないから』といって、どんな客が来るのか聞きたがるんだけど、そんなに必要な情報かな。  話しているといつもの雰囲気になって緊張が和らぎ、お酒が入ってさらに気持ちが開放的になった。  甘くて美味しいカクテルを気に入った私は、続けてファジーネーブルも頼む。  気がつけばお酒を飲みながら私ばっかり話していたけれど、亮は黙って聞いてくれていた。  カクテル三杯でくったりとしてしまった頃、亮が『そろそろ風呂入るか』と言って、私をバスルームに連れて行く。  私が席を外した時にお湯を貯めていたらしく、ミネラルウォーターをペットボトルの半分飲まされたあとに、二人で全裸になりシャワーを浴び始めた。 『夕貴……』  ザアザアとシャワーが降りしきるなか、引き締まった体を晒した亮が私の名を囁き、抱き締めてくる。  ボーッとした私は彼に身を預け、されるがままになっていた。  円形のジェットバスに入った私は、亮に胸やお尻を触られ、その合間、濡れた前髪を掻き上げた彼を見て、図らずもドキッとしてしまった。  顔がいいとは思っていたけれど、いざ露わになった美貌を目にすると、『こいつこんなに美形だったんだ』と意識してしまう。
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