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自宅に帰って部屋に鞄を置き、溜め息をつく。
亮は部屋にいるみたいで、映画の音が聞こえてきた。
(……聞いてみるか)
溜め息をついた私は気合いを入れ、酔いの力もちょっと借りて亮の部屋に向かった。
「……おかえり」
亮は私をチラッと見てそう言い、映画を一時停止する。
〝ながら〟でもいいのに、ちゃんと話を聞こうとするんだもんな。
感心しつつも、先日の結婚報告以来、亮と二人で話すのは避けていたから、ちょっと緊張する。
「……あのさ」
私はソファに座り、膝を抱える。
「なんだよ」
ヘッドレストのついている立派なパソコンチェアに座っていた亮は、クルリとこちらを向く。
「……今日、高瀬奈々ちゃんに会った」
そう言うと、亮は軽く瞠目した。
「……なんか言われたか?」
「どうしてそう思うの?」
逆に尋ねると、亮は溜め息をついて腕組みをした。
「……あいつ、頭おかしいから」
「……でも、仲よさそうだったでしょ」
「あれは……」
亮はとっさに何かを言いかけてから言葉を途切れさせ、溜め息をつく。
「…………まだ、色々起こる前だったし、夕貴に嫉妬してほしかった」
あれ、秀弥さんの勘が当たってた。
っていうか、〝色々起こる前〟ってなんだろう。
亮はばつが悪そうに横を向き、また溜め息をつく。
「……まぁ、夕貴はまったく嫉妬しなかったけど。……俺は夕貴に意識してほしくて、高瀬を利用した。その点は悪い事をしたと思ってる。『利用したでしょ』って言われた時にちゃんと謝ったけど……、あいつは許さなかった。……今思うと、凄く馬鹿な事をした。高瀬の怒りが夕貴に向かうとも思っていなかった。申し訳ない」
「それは……いいんだけど……。……奈々ちゃんに、私が秀弥さんと結婚するって教えた?」
「は?」
亮は反射的に声を上げ、目を丸くする。
……これは、知らない反応だな。
理解した私は安堵して脱力し、足を下ろして背もたれにもたれ掛かった。
「高瀬、何を言ったんだ?」
亮は目を眇め、嫌な予感がするとでも言いたげな顔をする。
〝練習〟の事とか、物凄く言いづらい。
……でも、ハッキリさせないと。
私は亮の顔を直視しないように自分の手を見つめ、おずおずと話し始めた。
「……亮の初体験の相手が、学校の先輩とか、……奈々ちゃんともエッチして、私とするための〝練習〟だって言っていたとか……」
彼の顔を見ないで言っていたけれど、亮が息を震わせながら吸ったので、思わずそちらを向いてしまった。
「…………亮?」
彼はどす黒い怒りと屈辱を、その顔いっぱいに浮かべていた。
――図星だった?
ドキッとした私は、彼の想いの何を信じたらいいか分からなくなって、不安げな表情になる。
亮は顔色を変えた私を見て、うめくように言った。
「…………違う」
「……なにが違うの? ……〝違う〟ならちゃんと話して」
ここまできたら、何を聞いても驚かない。
そんな想いを込めて亮を見つめたけれど、彼はらしくなく視線を泳がせ、苦しげに浅い呼吸を繰り返していた。
「言ったの? 違うならちゃんと否定してよ」
焦れた私は少し声を荒げる。
「奈々ちゃんの言った事が本当なら、最低だよ? 彼女の気持ちを知っておいて、他の女性を抱くための〝練習〟って言って抱いたなんて。……それに、友達として教えたのかもしれないけど、秀弥さんと私の結婚の事も話した?」
「友達じゃない!」
途端に、亮は弾かれたように言った。
その目はとても傷付いていて、縋るように私を見ている。
「……なんなの? 分からないから話してよ。一人で抱え込んでいても、言ってくれないと分からないよ」
訴えるように言ったあと、亮はギュッと目を閉じて口を開いた。
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