乱れ終わって

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「……私は、二人とも大事」  最初に結論を口にしたけれど、二人は自分を選ばない事を怒らなかった。 「先に亮と関係してしまった時は、断れない自分が嫌だった。でも亮が嫌いとかじゃなくて、異性としての魅力を感じていたから関係を続けていたんだと思う」  そこまで言うと、亮は安堵したように小さく息を吐いた。 「〝理由〟をつけてズルズル関係を続けていたけど、『終わらせないと』とは思っていた。秀弥さんが現れなかったら、私はこのまま亮以外の男性を知らずに生きていったと思う。『亮しか知らずに生きていくのかな』と思っていた時、それほど強い拒否感はなかった。弟と関係している後ろめたさ、バレたら両親を悲しませる怖さはあったけど、亮が弟じゃなかったらすべてを受け入れられていた。……だから私は秀弥さんの登場に、とても救われた。『これで近親相姦じゃなくなった』って思えたの」  酷い事を言っている自覚はある。  でも三人で交わり、それぞれが抱えているものもぶちまけた今、私も本音を言わなきゃいけないと感じていた。 「秀弥さんとエッチするようになって、どんどんプレイがエスカレートして、怖かったけど、どんな姿を晒しても受け入れてくれると思うとこの上なく嬉しかった。秀弥さんの前では〝いい子〟でいなくて済むと思うと、とても気が楽だった。エッチしていなくても一緒にいて心地よかったし、やっと結婚すべき人を見つけられたと思った。秀弥さんの手をとったあとは、亮を振り向いてはいけないって思っていた」  吐露する私の手を、亮がギュッと握ってくる。 「……でも、亮の想いの深さを知ってしまった。この想いを知って無視したら、私は人でなしになってしまう……っ」  声を震わせた私の言葉を聞き、亮は強く腕を引いてきた。 「俺は何があっても夕貴の側にいたい。お前が俺を愛していなくてもだ。……でも俺は〝可哀想〟じゃない。お前を守るために戦ったんだ。……そう思わせてくれ」  今の自分の言葉が亮を傷つけたのだと悟った瞬間、私は大きめの声を上げていた。 「違う!」  思っていたより強く反発したからか、亮はハッとして私を見つめてくる。 「情けじゃない。可哀想とも思っていない。……違うの。うまく言えないけど、私は〝弟〟っていうしがらみがあったから、亮を積極的に好きになる事ができなかった。本当はこのまま亮の存在を無視して、家を出て秀弥さんと結婚してすべて〝なかった事〟にすれば良かった。……そうできなかったのは、亮のまっすぐさが私に届いたから。あなたの強い想いは、私のずるくて汚いところを貫いて胸の奥に届いた。……だからもう、亮の想いに気づいていないふりなんてできないと思ったの」  その時、秀弥さんが私の頭を撫でてきた。 「夕貴、後ろめたいのは分かるけど、必要以上に自分を下げなくていい」  言われて、私はそっと息を吐く。 「……二人とも私の理解者だよ。秀弥さんは心身共に私のすべてを知って受け入れてくれたし、亮は私の生い立ちを知っているから、細かなところまで私を分かってくれている。……『選べない』なんて言ったら、軽蔑されるって分かってる。二人ともにいい顔をして、肉体関係を結んでおきながら本当の事を言い出せずにいた。……でも、私は二人とも大事」  煮え切らない自分を、私が一番許せていない。  この期に及んで何も決められない自分が、とても嫌だ。  静かに涙を流した時、秀弥さんが私の肩を抱いてきた。 「俺はそれでいいよ。さっきも言ったけど、俺は亮くんごとお前を受け止める覚悟ができている。……君はどう?」  彼に視線を向けられた亮は、そっと私の手を握ってきた。 「『選べない』って言っている夕貴の〝一番〟を望むのは馬鹿げてると分かってる。二番じゃないなら、同率一位なら……、いいよ」  亮は私の手の甲にキスをし、切なげに見つめてくる。 「ちょっと前は意地悪を言ってごめん。夕貴たちが結婚するって知って、腹が立ったから『邪魔してやる』と思っていた。……でも二人が俺を認めて受け入れてくれるなら、考えを改める」  彼の謝罪を聞いて、絡まりに絡まった私たちの関係が、少しずつほぐれていくのを感じる。 「私も、意地悪な事を言ったかも。傷つけたならごめん」 「仲直り、な」  秀弥さんは私たちが握った手の上に、自分の手を重ねてトントンと叩く。  亮は照れくさそうに手を放したあと、溜め息をついて私たちを見る。 「……それで、どうするつもりだよ。三人で住むとか?」 「いいんじゃない?」  亮は例えとして言ったつもりだろうけど、秀弥さんがあっさり頷いたので目を丸くしている。 「今考えるべきは、高瀬対策だ。俺は夕貴を守る事を一番に考えたいし、男手が増えるならそれに超した事はない」 「……確かに、一理あるな」  秀弥さんの言葉を聞き、亮はまじめな顔で頷く。
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