三人寄れば

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 力なく呟くと、秀弥さんが私の肩を抱いてきた。 「そう思うのは分かる。もうこういうものに付き合いたくないよな」  同意してもらえ、私はコクンと頷く。 「でも、馬鹿共って放置しておいたら、いつまでも同じ過ちを犯すし、自分たちがしている事が悪い事だって気付けないんだよ。夕貴が一方的に傷付いて会社を辞め、死にたくなるような思いを抱いても、あいつらはなんの罪の意識も抱かない。お前がもしも自死したとしても、掲示板で『かわいそー(笑)』って笑って終わりだぞ」  私はグラスをテーブルに置き、ソファの上で膝を抱える。 「そういう奴らと話し合いをして理解を求め、『悪かったです。もうしません』って改心してもらおうと思うなんて無理だ。それに大体の見当はついているとはいえ、画面の向こうに〝誰〟がいると突き止める? 結局は情報開示請求をして相手を特定するしかないんだよ」 「……もしも、……会社の人だったら?」  脳裏に浮かんだのは、私の悪口を叩いて嗤っていた人たちだ。 「『掲示板で誹謗中傷してた犯人は、自分をよく知ってる人でした』ってのはあるあるだ。そうであっても、罪を犯した相手には罰を与え、思い知らさないとならない。それでなかったらお前の傷付き損になる。そんなの俺は絶対に嫌だ」  キッパリと言われ、私はハッと顔を上げる。  秀弥さんは私を見つめる目に覚悟を宿していた。 「お前はいっさい嫌なものを見なくていい。俺は婚約者として告訴権を有し、自分の意志で奴らを訴える」  彼がそう言ったあと、亮が続ける。 「西崎さんに『やめて』と言っても、弟として俺がやる。父さんと母さんだって、掲示板で夕貴が誹謗中傷されていると知れば黙っていないだろう」  戦う意志を捨てない二人を見て、私は「…………うん」と小さく頷いた。 「ま、俺たちに任せておけよ。何があっても夕貴を守るって決めたから」 「……ん、ありがとう」  頷くと、クシャクシャと秀弥さんに頭を撫でられた。 「亮くん、今日泊まってく?」  秀弥さんが話題を変え、亮は「んー……」と少し考えてから「そうする」と頷く。 「夕貴は疲れただろうから、ゆっくり休めよ。なんなら明日も有給使って休んでいい」 「……うん」  彼は頷いた私の顔を覗き込み、尋ねてくる。 「会社、どうする? 一応上は味方に付けたけど、今後の身の振り方は夕貴に任せる。俺もお前がいないなら会社にいる意味がないしな」  それを聞き、亮はチラリとこちらを見る。 「……二人で会社を辞めて、どうするつもりだ?」 「さぁね。裁判のほうに決着がついたら、日本を離れてもいいし、国内の温泉を巡ってもいいし」  秀弥さんの答えを聞いた亮は、ムッと眉間に皺を寄せる。 「なんだよそれ。俺をハブにして二人で逃避行か?」  すると秀弥さんは意地悪に笑う。 「君には会社があるだろ?」  挑戦的に言われた亮は、顎をそびやかして尊大に返事をした。 「夕貴が東京を離れるなら、俺だってこの街にいる必要はない」 「もう……、お父さんとお母さんが寂しがるでしょ。……何も犯罪者として追われている訳じゃないんだから」  呆れて言うと、秀弥さんにポンと肩を叩かれた。 「今の言葉、忘れるなよ? お前は犯罪者じゃない。堂々としていていいんだ」 「……はい」  私は絶対的な味方でいてくれる二人に感謝し、微笑んだ。 **  翌日も少しゆっくりさせてもらったあと、行きづらいながらも出社した。  職場に顔をだした途端、好奇の視線が突き刺さって痛い。  動揺しないように平静を努めてデスクに着くと、志保が話しかけてきた。 「おはよう!」  いつも通り接してくれる彼女にホッとし、私は微笑む。 「おはよう」 「大変だったね。もう大丈夫なの?」  志保は声を潜めて尋ねてくる。 「ん……、あんなふうに言われて転ばされて、確かに傷付いたけど、辞めるまではちゃんと出社しないと」 「え!?」  志保は大きな声を出したあと、ハッと周囲を見てから私の腕を掴み「こっち来て!」と廊下に引っ張り出す。  そして人気(ひとけ)のないところまで私を連れて行ったあと、心配そうな表情で尋ねてきた。
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