第一話 極道の妻

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 その時はなるほど、と頷いていただけだったが、後になって質問の意図がわかった。 「……組長には跡取りとなる息子がいて、その息子の嫁を探していたんだ」 「まさか、それって」 「娘を嫁に欲しいって……」 「何よそれ!そんなの無理よ!!」  立ち上がって声をあげたのは、妹の莉々果(りりか)だった。  莉々果は小柄な子うさぎみたいな愛らしさを持っているけれど、この時は機嫌の悪い猫みたいだった。 「まさかパパ、莉々果に極道の妻になれって言わないわよね!?」 「……」 「あなた、莉々果はまだ大学生よ。これから社会に出て勉強していくのに、結婚なんて!それも極道だなんてあり得ないわ」 「ママの言う通りよ!莉々果カレシだっているのに! だからもちろん、嫁に出すならお姉ちゃんよね?」  莉々果はチラリと私を見やる。 「お姉ちゃんは今フリーでしょ?鈍臭くてこの先嫁のもらい手なんているかわからないし、極道でももらわれた方がいいんじゃない?」 「それもそうね。きっとその方がジェシカさんのためにもなるわ」 「よかったわね、お姉ちゃん!」  妹と母は、私の意思など求めていなかった。  求められたことなんて一度もないけれど。  父はブルブル震えながら、私に向かって深々と頭を下げた。 「すまないジェシカ、どうかこの結婚を受けてくれないか……!!」  極道との約束を違うことがあれば、父はどうなるかわからない。受けざるを得なかったのだろう。 「……わかりました。結婚します」
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