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「俺は勘当されたんじゃ……」
「これは命令だ。私はもう長くはない、組のためだ」
「…………」
千人規模の組の頂点に立ち、比類なき強さを誇るあの父がもう長くないなんて。
俺に対しては厳しい親父だったが、組の者たちには慕われ畏怖される組長であった。
その父が病気なんて信じられなかったが、人の命が突然尽きることを俺は身をもって知っている。
だからこの命令は受けることにした。
「和仁、久しぶりだな」
「信士……」
「元気そうで良かったよ」
信士は柔らかく微笑んだ。
後から聞いた話によれば、俺たち桜龍の勢いは桜花組にも届いていたらしい。
このまま放置しておくことは見過ごせないレベルにまでなっており、そこで信士が桜龍を桜花組にそのまま取り込まないかと父に進言したようだ。
「吉野組長が倒れたと聞いたばかりだったしな。このままだと警察に目を付けられるのも時間の問題だし、早めに取り込んだ方がいいですよってね」
「随分勝手なことをしてくれたな」
「拗れた親子喧嘩をどうにかするきっかけになったじゃないか。それに俺は、親友をしょっぴくのは絶対に御免だからな」
信士にしてはらしくない、苦い表情を浮かべていた。
信士なりに心配していて、ずっと心を痛めていたことは何となく察した。
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