第六話 遅れてきた蜜月

2/12
前へ
/85ページ
次へ
「お疲れ様です」 「はあ……本当に疲れた」  溜息をつきながらシュルリとネクタイをゆるめる和仁さん、色っぽくて素敵。  憂鬱な表情ですらカッコいい。 「……なんで笑ってるんだ」 「え?いや、なんでもないんですっ」  私ったら、ついにやけちゃってた。  疲れてる夫を労うどころかときめいてる妻ってどうなのかしら? 「君を見ていると疲れが飛ぶな」  和仁さんはそう言うと私の腰に腕を回し、抱き寄せる。 「前から思っていたが、君の瞳は綺麗だな」 「え?汚くないんですか?」 「汚い?どこがだ」 「だって、昔言われたことがあるんです」  母譲りの色素の薄いグレーの瞳は、濁っていて汚いって子どもの頃は馬鹿にされた。  妹の莉々果にも言われたことがある。 「お姉ちゃんの目は濁ってて変な色だよね。青い目とかだったら良かったのにね」と。 「だから私、ずっと自分の目がコンプレックスで……」 「しょうもないやつがいたんだな。僻んでいるだけだから気にするな。誰が何と言おうと、綺麗だ」  和仁さんの言葉はいつも私を優しく包み込んでくれる。  コンプレックスだと思っていたこの瞳も、和仁さんが褒めてくれるのなら好きになれる。  私は私のままでいいと言ってくれることが、たまらなく嬉しい。 「ありがとうございます」  日に日に大好きという想いが強くなっている。  政略結婚だったけれど、こんなにも大好きになれる人が旦那様だなんて、なんて幸せなのだろう。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

581人が本棚に入れています
本棚に追加