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「それ私のテーブルの伝票……」
「いいよ、これくらい。朱里が払う必要ないやつじゃん」
“確かにそれはそうだけど”
もう別れてしまったのだから亮介が頼んだものは亮介が払うべき。その考えは正しいのだが、その亮介の分を彼が払うのは私が払う以上に違和感がある。
どうするべきかと迷い戸惑っている私に気付いた光希は、可笑しそうにくすりと笑いそっと私へ耳打ちをした。
「俺、据え膳は食べるタイプだから」
「……!」
「これくらいは俺が払うよ」
ふっと笑う彼にドクンと心臓が大きく跳ねる。
そして次に向かう場所を連想してじわりと額に汗が滲んだ。
“私、この後――”
「朱里」
優しく名前を呼ばれピクッと体が反応する。
流石に早まった、勢いとはいえ馬鹿なことをしようとしている。
そう思うくせに、私に向けられる笑顔と差し出された手が何故か拒めなかった。
彼に手を引かれ路地に入る。
まだ明るい空の色と、閑散とした人通りの少ない道がどこか背徳的に思えて心臓が激しく鳴った。
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