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その事実に内心安堵しつつ、私は常に持ち歩いている名刺ケースから名刺を一枚取り出し彼に渡した。
「これ、私の名刺」
「あー、なるほど。リサーチも兼ねてやってるんだ?」
「まぁね、ちょっとアプローチかけてるの」
自分で言うのもアレだが会社が有名だったことと、また部署名から関連性を察したのか納得した顔で小さく頷いた彼は、すぐにその表情を呆れたようなものへと変える。
「てかさ、初対面の男に名刺渡すなよ」
「なっ、しょ、初対面だからでしょ!? ビジネスの基本じゃない」
「これがビジネスだったらね……って、そうか。お金で買われたんだからある意味ビジネスなのか」
そう結論付けた彼は私のテーブルの伝票を取り私に向かってニッと笑う。
「じゃ、仕事しに行こっか」
それが、私の『経験を積む』ということだと気付きじわりと頬が熱くなった。
自身の伝票とこちらの伝票の二枚を持ったままレジに向かう彼を慌てて追う。
「不二さんっ!」
「光希でいいよ、なんかほら、そびえ立ってる山みたいだし」
そのおちゃらけた言い方に思わず吹き出すが、今は笑っている場合ではない。
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