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真剣な眼差しに射貫くように見つめられていることに気付き息を呑んだ。
「平気?」
「あ、えっと……」
「ほら、手も冷たくなってるし」
「わっ」
私の右手を両手で包んだ光希が、手のひらをマッサージするようにゆっくりと揉む。
ラブホのエレベーターの中で、お金で買った初対面の男に変な意味なくマッサージを施されているというこのちぐはぐな状況がなんだか可笑しく、ふっと私の口から笑いが漏れた。
笑ったことで緊張が解れたのか、さっきまで強張っていた体が軽くなったように感じる。
「お、手のひらちょっと温かくなってきたかも」
「マッサージのお陰ね」
「はは、これはサービスにしとく」
悪戯っぽく笑った光希の表情を見て、きっとこの会話含めて私を気遣ってくれていたのだと察した私は、なんだか胸の奥がくすぐったかった。
“亮介からこんな風に気遣われたりってなかったな”
「どうする? 降りる?」
一瞬言われた内容がわからずポカンとした私は、もう目的の階に着いていることに遅れて気付き慌てて大きく頷いた。
「お、降りる!」
「本当に?」
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