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少し冗談っぽく小首を傾げて聞く彼のこの言葉が、選択肢を与えてくれていることを理解する。
今ならまだ引き返せるのだと――……
“でも、あんなこと言われて悔しかったから”
それに私の気持ちを優先しようとしてくれる彼ならば。
「お金で買ったのは私だから」
「あははっ、了解」
精一杯強がってそう言いながら、吹き出した光希と一緒にエレベーターを降りたのだった。
◇◇◇
「キスってあり?」
「あ……、り、んっ」
ガチャンと扉が閉まるのと同時に唇が重なる。
下唇を挟まれ開いた隙間をなぞるように彼の舌が動き、私はそのまま促されるように口を開けた。
口内に彼の舌が侵入してきたことに思わず肩を強張らせると、私の緊張を解すように背中をゆっくりと撫でられる。
いつの間にか口内を蠢いていた舌が抜かれ、重ねるだけの口付けへと戻っていた。
“私のペースに合わせてくれてる?”
そう気付くと、胸の奥がほわりと温かくなる。
少し落ち着いてきたからか、冷静にそう考えられるようになった私は意を決して舌を伸ばし彼の唇をつついた。
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