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「えっ!」
私の言葉にぎょっとした光希が思案するように視線を左右へさ迷わせる。
その隙に体を完全に起こした私は、まだ脱いでいなかった彼のベルトへと手を伸ばす。
外そうと必死に手を動かすが、緊張からか上手く外せなかった。
「あ、あれ? うんっと……」
「朱里」
そんな私の手にそっと光希の手が重ねられる。
「嬉しいけど、それは次回に取っておこうかな」
「次回?」
「あるでしょ、次回」
改めて言われドキリとする。
もう私たちの関係は買った、買われたではなく恋人同士なのだ。
「でも……」
それでもつい渋ってしまうのは、亮介に言われたことが引っかかっていたからである。
そしてそんな私の気持ちに気付いたのだろう、光希がムスッと眉をひそめた。
「何を考えてるのか大体わかるけど、このタイミングで前の男のことを思い出されるのは面白くない」
「!」
光希の言葉にあっと思う。
確かに私だって、もしこの状況で昔の彼女と比べられたりしたら怒るだろう。
そんな当たり前のことに今更気付き、慌てて謝るとふわりと頭を撫でられた。
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