1.どうしてもと、言うならば

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 ぽかんとした様子の彼の前にお財布から二万出す。   「だから、貴方を買います。とりあえず今はこれしかないけど、でも従業員は十人しかいなくても本当に社長令嬢だから。一応」 「いや、あの俺は」 「提案したのは貴方のくせに、まさか断らないわよね?」  眉をひそめギロリと圧をかけつつそう言うと、うぅん、と戸惑ったような顔をしていた彼が突然笑い声をあげた。  その様子にギョッとする。 「うはっ、あははっ、嘘、マジでか。そう来る? そのやけくそな開き直りちょっと好きかも」 「は、はぁ?」 「いいよ」  ニッと口角を上げ、どこか悪戯っ子のように笑った彼は、開いていたノートパソコンと荷物をサッと片付け亮介がさっきまで座っていた席へと座り直した。 「買われてあげる」 「な、なにが……」 「買うって言ったのお姉さんだからね、クーリングオフは効かないよ」  そしてサッと私の方へ握手を求めるように手を差し出す。 「不二光希(ふじみつき)。今日からよろしく」
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