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「へぇー。例えば?」
ヒューゴは顎に手を当てて考える素振りをする。そして、こう答えた。
「貴女といると時間が経つのが早い……とかか?“You are the time in my life”という言い方もあるな」
“あなたは私の人生の時間”それはヒューゴの心の内をそのまま伝えた言葉だった。
今まで規則的、機械的に過ごしてきた人生が玲と出会い、変わり始めた。玲と共に過ごす時間は本当に早いのだ。
だが、そんなヒューゴの思惑とは裏腹に、玲はキョトンとする。
「何それ」
玲は理解できていないという顔だ。どうやらその言葉は玲にはヒットしなかったようだ。
難しいなとヒューゴが他の言い回しを見つけようとすると、先に玲が口を開く。
「“あなたといると時間経つのが早いです”とかさ……なんでそんな遠回しな言い方なんだよ」
「いや、楽しい時間はあっという間に過ぎるというのを伝えてるんだ。ストレートに愛を伝えるのは、大人は恥ずかしいものだからな」
「ふーん、じゃあさ、ヒューゴは私といて楽しい?」
「ああ」
“貴女といると時間が経つのが早いです” も“You are the time in my life”もそれは遠回しな言葉。
ストレートに“好き”だと伝えるより恥ずかしくないと思ったから選んだ言葉だったが、どうやら玲には伝わらなかったようだ。ヒューゴはそれに安堵する。越えてはならないと言い聞かせていたのに、本能とは恐ろしい。
「そっかー!ならよかった!」
玲はとても嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、ヒューゴはまた心惹かれる。この笑顔をずっと見ていたいと思う。
しかし、それは許されない。
ヒューゴは意識的に玲との距離を測る。
そうちょうど二人の心の距離がのびるように、うまくバランスを保って。
深くまで入り込まないように、注意しながら……それでも、ギリギリをたどってしまう。
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