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止まるべきは自分の方なのに、これでは……。
「ヒューゴはさ、結構私のこと好きだよな」
突然の発言にまたヒューゴの気持ちは乱れる。それでも慌てずに心を静める。
“何を根拠に言ってるんだ?”なんてセリフは玲には通用しないだろう。今までだって散々言ってきたのだから。
それならば……。
「ああ、そうだな……」
「え?マジ?」
「……貴女は、私を救ってくれたからな。嫌いにはならないだろう」
そう淡々と告げた。ヒューゴは誤魔化した。恋愛の意味ではないことを。親愛からくるものだと、偽って。
思わぬヒューゴからの言葉に玲は、照れたが嬉しそうに笑う。
「そっか、よかった。ヒューゴは仲間だから、私も大好きだぞ」
「ああ、ありがとう」
玲の言う“大好き”はヒューゴとは意味が違う。それでも特別だった。
だから、ヒューゴもそれを返すのだ、仲間として。
この気持ちに嘘偽りはないと自分に言い聞かせながら……。
***
そして、また今日もその距離を測りながらヒューゴは本を読む。玲がいつくるのかと期待する自分がいることに気づいた。
なんとも卑怯だなとヒューゴは自嘲する。距離をのばしたいくせに、やっぱり近くにいたくて、今の関係の心地よさに甘えている。
己を律したい思いと、心は自由でいたいという思いがヒューゴの中でせめぎ合う。
それをコントロールするようにまた、厳しい顔つきで黙々と一人本を読む。
「ヒューゴ」
いつもより集中していたからか、ヒューゴは玲の気配に気づかなかった。
目の前に身を乗り出してくる玲。
ヒューゴは息を呑んだ。玲の顔が近い。手を伸ばせば簡単に触れられる距離にいる彼女に、情けない自分の心を見透かされたくなくて、動揺を悟られたくなくて、直視する。
しばしの沈黙。睨めっこ。逸らしたら負けとでもいうように。
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