8人が本棚に入れています
本棚に追加
どれくらいの時間が経ったのだろう。いい加減馬鹿馬鹿しいと思ったヒューゴは口を開こうとした。
その時、ふにっと唇に玲の人差し指が触れる。
「奪っちゃったー」
ケラケラと笑う玲。反対にヒューゴは驚き、硬直した。そんな様子を見て玲はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。
「あれ?なに?さすがの堅物ヒューゴもドキドキしちゃった?」
揶揄う玲を黙らせるために、ヒューゴは玲の手を掴み軽く自分の唇を当てる。
チュッとリップ音がして、そっと離れた。
「こうされるのはお好みかな?」
ヒューゴが真っ直ぐに見つめれば、その瞬間に玲の顔が赤く染まる。大きな目が見開かれて、口は何か言おうとしてパクパクと動いたが声にはならない。
そんな玲の姿にヒューゴは少し満足そうに笑って本に目を戻した。
“奪っちゃったー”なんて可愛らしいことをするからそのお返しだ。
しかし、そんな余裕もすぐになくなるくらいヒューゴの心臓はバクバクとうるさく鳴り響く。一切顔に出さない自分を褒めたいとヒューゴは思った。
「な、何すんだよ!」
ようやく玲から出てきた言葉は怒りだった。恥ずかしさを隠すように強気に睨むその表情。毛を逆立てる猫のようだとヒューゴは、自分が仕掛けたにもかかわらず玲の勢いに気圧される。
しかし、ここは大人の威厳をみせるヒューゴ。淡々と言葉を返した。
「何か不満かな?英国紳士の嗜みの一つでね、敬愛を込めて口付けする」
「そっか……じゃなくて!なんで、そんな仕返しするんだよ」
「先に仕掛けてきたのは貴女だろう」
「違う!そうゆうのじゃなくて……」
玲は納得していない様子だ。それではヒューゴも引く訳にはいかないと、口調を強めた。
「では、なんのためにした?」
「うっ……それは……」
言葉に詰まる玲に、畳み掛けるようにヒューゴは言う。
最初のコメントを投稿しよう!