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「私の気持ちも知らないで」
すると、玲の顔は見る見る赤く染まり俯いてしまう。その反応を見てしまったら、あるはずのない何かを期待してしまう自分がいるからヒューゴは目を背けるしかなかった。
これ以上踏み込んではならない。相手は10も年の離れた少女だ。玲は自分のことなど仲間以上には思っていない。彼女を、困らせては……ならない。
そんなこと、ヒューゴ自身が許せない。
「あまり、大人を揶揄うんじゃない」
そう告げて、席を立つ。あのままいれば、本当にどうにかなってしまいそうだから。ヒューゴはぎりっと奥歯を噛み、その場から去った。
***
翌日から玲はヒューゴの所へ顔を出さなくなった。向かいにいつもいた顔がないことに、ヒューゴは寂しさを覚える。
しかし、これでよかったのだ。このまま、どんどん距離をのばしていけば、自然とこの想いも消化される。
玲にこのどうしようもない想いを告げて困らせるなんて真似、ヒューゴはしたくないのだ。
“大人を揶揄うんじゃない”そう彼女に伝えたのは自分だ。
だから……これでいいんだ。
しかし、そんな思いとは裏腹に、ヒューゴの心にぽっかりと穴があく。その穴を埋めるように、また本を読むが、集中できない。
「ああ、クソッ」
そんな自分に悪態をつくと、本を閉じた。そして、席を立つ。向かう先は決まってる。早くこの苛立ちをなくすには煙草しかない。
自室に戻りヒューゴは煙草に火を付ける。
深く吸い込んで煙を吐き出すと、少し気持ちが落ち着いた。
「はぁ」とため息を一つつく。
玲は今頃何をしているだろうか?と、目の前に彼女がいなくてもそんな風に考えてしまう。そのことにヒューゴはハッとして、頭を左右に振った。
せっかく距離ができるチャンスなのだ。わざわざ自分から無駄にするようなことはしたくなかった。
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