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「私は……何を……」
ヒューゴは己の浅ましい考えに嫌気がさす。これ以上、自分の心を制御できないのは危険だと感じ始めた時、ノックの音が鳴った。
「入れ」
煙草の火を消し、短く答える。そして、入ってきた人物を見てヒューゴは驚いた。そこには玲が立っていたから。
しかし、その表情はどこか暗いもので、いつもの彼女ではないことを物語っている。
「どうした?」
そんな玲の様子に心配になるヒューゴだが彼女は一歩一歩ヒューゴに近づく。ヒューゴは玲の行動を見守る。とうとうヒューゴの目の前まできた玲は、顔を上げ見つめてきた。
その顔にヒューゴはドキリとする。真剣な表情は、あの日の玲と重なる。ヒューゴに自由を与えてくれたあの日の凛々しい彼女に。
玲は無言でそのまま更に近づいてくるから、反射的にヒューゴは後退り、どんどん押されてしまう。
気づけば、もうベッドの前まできてしまった。
「おい、玲。一体何を……」
次の瞬間、ヒューゴはベッドに座らされていた。玲が押したのである。
ヒューゴが座ることにより、二人の目線は同じになる。
「玲……」
ヒューゴの声は、とても小さかった。玲に気圧されてしまったためである。一度も逸らさない、凛々しい眼差し。
見つめ合う……というよりは睨み合うがこの場では適しているのだろう。色気もムードもないこの状況にヒューゴはただ、動けずにいた。
意地になって逸らさずにいるが、もう限界で……先に根を上げたのはヒューゴだ。
「……っ」
耐えきれず顔を背けようとするヒューゴを玲の手が優しく、しかししっかりと彼の頬を両手で包む。そして、まっすぐ目を見て言うのだ。
「好きだよ」
その一言で、ヒューゴはまた自分の心に嘘がつけなくなった。
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