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貴女との距離
品位とは鎧だ。
自分の心の未熟さを補うように纏うそれは、身につけているだけで背筋がのびる。本来の自分を隠し、理想の自分になるべく振る舞える、たいした代物である。
その鎧は年齢を重ねれば重ねるほど、厚く固くなり、鎧の内側も強固になっていく。
ここで静かに本を読んでいる男もそうだ。名はヒューゴ。27歳の英国人。ガッチリ固めたオールバックのプラチナブロンドに氷のような青い瞳が、彼の冷徹さを体現している。
性格もこれまた真面目堅物。冗談もいわない。他人に厳しく、自分にはより一層厳しい男。
そんな彼、ヒューゴはその鎧に助けられてきたし、これからもそうでなければならないと思っていた。
それなのに。
彼女はいとも簡単にヒューゴの内側に入り込んできた。
彼女とは、今目の前で菓子をつまみながら紅茶を飲んでる玲という名の少女。
景色のいいテラスでヒューゴがティータイムがてら読書をし始めると現れる彼女は、歳が10も離れているのにも関わらず、あっけらかんとして他愛もないおしゃべりを一人でする。
ヒューゴはある程度の相槌しかうたないが構わないようで、ひとしきり喋っては満足して立ち去っていく。
読書も邪魔されヒューゴにとってはデメリットしかないはずなのに、何故か毎度その時を待ち侘びる彼。
重いはずの鎧が、玲と関わると柔らかくしなやかになる。玲の一挙一動がヒューゴを揺さぶるのだ。
そして、その揺れはけして不快なものではないとヒューゴは思った。むしろ心地よいとさえ思っている。
それもそのはずだ。
ヒューゴは玲に心酔している。こんな性格の彼は、ぶつかる相手も多く、理不尽なことに周りにハメられ、その場から動けなくなった時があった。心も体もだ。
しかし、真面目故にそれを自分の落ち度と受け入れて、抵抗せずにいた。
それを救ったのか玲だ。
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