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 北の塔。名前だけで薄ら寒いこの建物は、王国の北西、国境沿いにある。森の中にある石作りの建物で、背の高い木よりも高くそびえ立っていた。隙間風が吹く寒々しい塔だ。  ランドール公爵家の令嬢、シエラはそんな北の塔にひと月前から幽閉されている。  思い起こしてもなぜ、こんなことになったのかは理解不能。王太子のお気に入りの令嬢に危害を加えたとかなんとか。しかし、そんな記憶もなければ王太子のお気に入りの令嬢というのが誰なのかもわからない。  なぜそんなことで幽閉されなければいけないのかはわからないが、シエラにとっては勿怪の幸いといったところだ。 「こんな生活があと10年続くなんて……最高だわ……」  シエラは北の塔で一人呟いた。
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