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 北の塔は縦に細長く、十層に分かれている。円柱の塔で外側が階段となっており、ぐるぐると登るのだ。  シエラは下から三層目で暮らしていた。一層目は地面からの冷たい空気で寒く、一番上は登り降りが大変だからだ。二層目は侍女のサラの部屋にして、三層目をシエラの部屋とした。  幽閉されてひと月と半分が経ったころ、シエラは運動がてら階段を登った。  届けてもらった刺繡糸が底をつき、倍の量をねだったのが昨日。数日は図案を考えることに集中したい。 (次はどんな柄にしようかしら)  前回は薔薇の花を刺した。その前は刺しなれたランドール公爵家の家紋。趣味で刺繍を始めて10年。最近は図柄も似たり寄ったりで面白くない。似たような図柄は成長を感じられるといえばそうなのだが、やはりわくわく感を得るには少し足りなかった。  考えながら一段一段ゆっくり登る。息が上がった。  アイディアを出すときには全く違うことをやるほうがいい。そう思って塔の上を目指しているのだが、引きこもりのインドア派には長く感じた。しかし、途中で投げ出すのも悔しくて、シエラは初めて塔の一番上まで登ったのだ。  最上階の部屋は真っ暗だった。明り取りのない古びた小窓を押し開けると、強い風が入ってくる。  シエラの髪を乱し、部屋の埃が空中を舞う。 「もうっ! 全身埃だらけ。こんなことなら一番上なんて来るんじゃなかった!」  先日母から送られてきた赤のワンピースはすっかりくすんでしまった。シエラは大きなため息を吐く。 (もう二度とこんなところ登らないんだからっ!)  憎々しい気持ちをぶつけるように空っぽの部屋を見回す。石造りの塔は味気ない小窓から入る光以外には何もなく、埃だけがたまっているようだった。  しかし、シエラは壁に不思議な模様を見つけて目を奪われた。 (なにこの模様……)
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