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 大きく描かれた模様はシエラが目にしたことのないような図柄だった。大きな円の縁の中に描かれた不思議な模様。文字のようにも見えるし、木や花のようにも見える。 「綺麗……」  石の上に描いているせいか、ところどころ欠けて床に落ちていた。しかし、すべてを集めれば一つの模様が出てきそうだ。 「これだわっ! 次はこれにする!」  シエラは目を輝かせて叫んだ。  その日から、シエラは毎日階段を登った。壁に描かれている以上、自分の部屋には持ち込めない。描き写すことも考えたが、本物を見て刺したかった。 (せっかくだから大きいのを作って、ベッドカバーにしようかしら?)  身の回りの物を自分の刺繍で埋めていく。なんと幸せなことか。  令嬢の嗜みと言われて始めた刺繍は、いつの間にかシエラにとってかけがえない趣味となった。  貴族の娘として生まれた以上、刺繡以外にも学ばないといけないことは多い。特に王太子妃となる予定だったシエラには多くの勉強が求められた。  そのすべてが苦手だったわけではないが、やはり楽しいと思えるほどではない。唯一、刺繍をしているときだけが面倒なことを忘れられるのだ。  塔の最上階は見違えるほど綺麗になった。刺繍の道具が汚れないように。壁も磨くと不思議な模様も鮮明に見える。 「お嬢様、この模様はヘンテコな形をしていらっしゃいますね」 「素敵でしょう? 家紋とも違うし……。昔の人が描いたのよ。きっと」 「これを刺繍しているのですよね?」 「ええ! 綺麗でしょう?」  シエラはできた半分の刺繍を見せた。美しい紺一色の刺繍だ。サラはよくわからないと首を傾げた。 「お嬢様の作品はどれも素敵ですが、これの美しさは私にはわかりません」 「そう……。こんなに綺麗なのに……」
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