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 美しい男は笑みを浮かべてシエラを見つめた。まつ毛の長さすら数えられる距離。吐息がシエラの頬にかかった。  シエラはぎゅっと目をつぶる。  そう、これは変な夢。  しかし、不思議と眠気は襲ってこない。  そもそも夢の中で眠気など感じるものなのか。 「眠れぬのか? ならば我が子守歌を歌ってやろうぞ」 「いい。間に合ってますから」 「そう言うな。子守歌は得意なほうだ」  夢とは言え、見知らぬ男に添い寝されたまま子守歌を歌われるとはいかがなものか。 (まあ、夢だし。誰が見ているわけでもないし) 「おはようございます。お嬢……さ、ま!?」  下の階から上がってきたサラが顔を出し、目を丸めた。シエラはサラの顔を見て、頬をつねる。  痛い。痛いときは夢の中だっただろうか。 「お嬢様……。お隣にいらっしゃるのは……ど、ど、どなたですか?」  シエラは振り返って男の顔をもう一度見る。夢でもそうそう見れないような美しい顔だ。 「ん? どうした? 我の顔に何かついておるか?」 「夢……じゃない、の?」 「我は夢見心地ではあるが」  男の形のいい唇が綺麗な弧を描く。  シエラの叫び声が北の塔の上まで響いた。
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