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「つ、つまり……。私のこの刺繍から出てきたということ?」
「ああ、そうだ。そなたが我を救ってくれたのだ」
美しい男の名はエルヴァティア。長く古風な名前だった。職業は魔法使いだということだ。魔法使いといえば、おとぎ話で見聞きするあれだ。不思議な力を使う者のことだろう。しかし、あれは架空の世界の話である。しかし、彼はそんな架空の世界の力を持っているというのだ。
エルヴァティア曰く、シエラが刺繍した不思議な図柄は魔法陣というものらしい。
この魔法陣はこの世界と異空間を繋ぐ扉としての役割を果たしていた。しかし、なんらかの事情により、エルヴァティアが異空間にいるあいだに魔法陣の一部が欠損しこちらの世界に戻ってこれなくなったということだ。エルヴァティアの言っていることは難しく、シエラはほとんど理解できなかった。
「我が作った異空間は時を止めたせいで年月が過ぎぬ。ゆえに無限の時間を彷徨っていた。しかし、昨夜突然魔法陣が反応したのだ」
「はあ……。そうだったのですね」
「そなたはなんと素晴らしい魔法使いだろうか!」
「いえ、私は魔法使いではございませんが」
シエラは美しい図柄を真似して刺繍をしただけである。魔法使いであるはずがない。
「このように正確な魔法陣が描ける魔法使いはそうおらん。若いがさぞ苦しい修行を積んだのであろう?」
「いいえ。だから私はただの公爵家の娘です」
「なに。謙遜するでない。公爵家といえば高名な魔法使いをたくさん輩出しておる」
「そんな話聞いたことありません」
全く話が通じない。彼はどのくらいのあいだ異空間というところにいたのか。それすらもわからないそうだ。
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