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「では、そなたはどうやってこの魔法陣を描いたというのか」
「壁に描かれたままを写したのです」
シエラはエルヴァティアを塔の一番上に案内することにした。シエラの生活する三層目から一番上までは結構な時間がかかる。階段を登りはじめたとたん、エルヴァティアが首を傾げた。
「なぜわざわざ登るのだ?」
「なぜって、それ以外に上には上がれないでしょう?」
「飛んだほうが早かろう?」
「鳥じゃないんだから飛べるわけがないじゃない」
空を飛ぶというのは誰もが憧れるシチュエーションではあるけれど。
「本当に魔法が使えないのだな」
エルヴァティアが呟くように言った。そして、シエラの腰を抱く。
「ちょっとっ! 何をっ!?」
「なに、少し我につかまっておれ」
「えっ!? どういうこと? ちょっとっ! あっ……!」
浮いている。身体がふわりと浮いた。シエラは慌ててエルヴァティアにしがみつく。
手品のように二人の身体は宙に浮いていた。そして、どういうわけかそのまま上へと登っていく。
「本当に浮いてるっ!?」
エルヴァティアの黒髪が揺れる。シエラの白銀の髪が混ざってキラキラと輝いた。スピードがどんどん上がっていく。今までに感じたことのない浮遊感に、シエラはしがみつく手を強めた。
すぐに二人は最上階へと到着した。いつも休み休み登っていた階段が一瞬だ。
シエラはへっぴり腰のまま小窓まで這うと、唯一の窓を開ける。
光が入った。冷たい北の風が部屋の中を走り抜ける。
「ほう。懐かしい。我が描いた魔法陣だ」
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