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美しく整えられた庭の草花は秋のものに変わってきているが、ぽかぽかと柔らかな陽が差していて暖かい。
テラスにテーブルと椅子がセッティングされ、日除けの大きな布の端には紐が縫い付けられており木に結ばれている。
テーブルの上にはさまざまな料理が小さく分けられて盛られ、エディブルフラワーも添えられて華やかで目にも楽しませてくれる。
「これは、料理長頑張ったな。」
「そうなのですか?」
「いつもは普通に肉や野菜を四角く切っただけのものだ。今日はラウリーヌがいるから美しく盛り付けられている。」
皿の上は美しく美味しそうに盛り付けられており、それでも片手だけで食べやすいように工夫されている。しかしどうやら普段ジョスランが食べるのはシンプルなものであるようだ。
「では私もフォークだけで頂けますね。」
レノーが言ったように、右手のみでも優雅な所作で食事をするジョスランに見惚れてしまう。
昨日からラウリーヌの調子は崩れっぱなしだ。変わり者だと聞いていたので、てっきり高慢な大貴族で高圧的な人だと思っていたし、使用人たちも単なる子爵家の娘である自分に厳しく当たると思っていた。
そんな思い込みをしていた自分が恥ずかしくなる。
しかし考えてみれば公爵家で使用人もたくさんいる。身の回りの世話をさせるために結婚など必要のないことだった。
「どうした? 食べやすいように食べてよいのだぞ。」
ぼんやり考えていると、ジョスランが心配そうに聞いてきた。
「えと……、とても美しくて食べるのがもったいないと見惚れていました。」
少し赤くなりながら言うと、ジョスランがほっとしたように「そうか」と呟いた。
「時間がある時でいいので、これからも食事をご一緒してもいいですか?」
「もちろん。あ、それから敬語は止めてほしいと言ったね? 知っている通りレノー始め私には敬語を使わないんだ。だから君も敬語ではなく、名前も呼び捨てにしてほしい。」
「えーと……。」
「私からもお願いしますよ、ラウリーヌさま。」
ジョスランのグラスに水を注いでいるレノーが言った。
「婚約者殿が敬語で側近がこんな口調なのは外聞が悪いですからね。」
「その理屈はどうかと思うが。まあそういうわけだ、ラウリーヌ。」
「わかり……わかったわ、ジョスラン。」
「それでよい。」
ジョスランの満足そうな笑顔にラウリーヌの心臓が跳ねた。
食事が終わる頃、クレマンが現れて朝と同じようにジョスランに薬を手渡した。
「その薬は毎食飲むの?」
「ああ。これは痺れを取る薬でね。これのおかげで体を動かしやすくなった。」
「クレマンは天才薬師なんですよ。彼を拾えたことは僥倖でした。」
「拾えた?」
「ええ、僕は拾われたんですよ。前に働いていた所の環境が劣悪でしてね。ジョスランに拾われなきゃどうなっていたか。」
「大袈裟だな。」
ジョスランが薬を飲み、その後お茶を飲みながら四人で過ごした後、ジョスランとレノーは仕事に戻って行った。
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