ベルジュラック①

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 ラウリーヌは兄に手を取られ広間の中央へ出た。周りの視線をひしひしと感じる。 「さすがに注目されているなあ。」 「いやというほどね。」 「主役だし我慢するしかないね。だがまあ、仲良さそうで良かったよ。」  ラウリーヌがちらっとジョスランを見ると、右手で頬杖をつき、穏やかな顔をしてこちらを見ている。  正装してシャンデリアの光で陰影のある表情は色気があり、その目で見られると顔がかっと熱くなるのを感じる。  慌ててキーファーに視線を戻した。 「あの方にとって私など簡単に御せる相手ですから。」 「そりゃ百戦錬磨の公爵だ。ラウリーヌみたいな子どもは可愛いものだろうな。」  ラウリーヌはむっとしたが、ふと思い浮かんだことを質問した。 「兄さま、公爵と私が昔どこかで会ったらしいのですが、ご存知ですか?」 「お前が父とこのベルジュラック邸に来た時じゃないか?」 「記憶にないのですが。」 「そうだな、あの頃はまだジョスランさまもあまり動けなくてずっと家にこもっていたらしいからな。先日、うちに来た時に自力で歩いていたから、父さまも俺もびっくりした。」 「そう……なのですか。」 「ああ、会議でも一番最初に議場に座っていて最後まで残っている。杖をつきながらでも歩いているのを見たのはあれが初めてだ。」  ターンの時、ジョスランの姿が目に入った。  ジョスランの周囲に人が集まり、その大多数が娘を伴った親子で、その娘は頬を赤らめてジョスランに声をかけていて、ジョスランも先ほどと変わらない穏やかな顔で応対している。 「いてっ、ラウリーヌ、足踏んでる!」 「あら、ごめんなさい。」 「はん? なるほど嫉妬か?」 「違います。」 「結婚しないと公言していた大貴族がいきなり婚約したと思ったら相手は子爵令嬢だ。とって代われると考える奴は多いだろうな。」  そこで音楽が終わり頭を下げ振り返ると、ジョスランが群がっていた令嬢たちに構わず、ラウリーヌの方へ近づいてきた。 「キーファー殿、ラウリーヌの相手をありがとう。ラウリーヌ、君のダンスは花が咲くようで美しかったよ。」    ラウリーヌがかあぁっと赤くなり、キーファーが「おやおや」と呆れた声を出した。 「ラウリーヌ、まだ踊りたければレノーが相手をするそうだ。彼も一応貴族だからね。」 「いえ、私はもう。では兄さま、また後ほど。」 「ああ。ジョスランさま、失礼いたします。」  ひらひらと手を振る満面の笑顔の兄が腹立たしい。  ジョスランに向き直ると、柔らかい笑顔でラウリーヌを見下ろしている。先ほど群がっていた令嬢たちに向けた笑顔とは違うと理解し、なんとも言えない感情が湧き起こるのを感じた。それは優越感であり、切なさであり、独占欲でもあった。    シャンデリアの輝きの下、ジョスランを見上げる。  彼は自分よりも九つも年上の大人の男性。しかも地位も財力もある。なぜ自分なのか……。  ラウリーヌはジョスランのサファイアのような瞳をちらりと見て言った。 「……ジョスランは、百戦錬磨なの?」 「なんの話だ?」
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